DL-103シリーズの比較テスト | 中川 伸 |
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丸針と楕円やラインコンタクト針とではどちらの性能が上でしょうか?それは良く知られているように楕円やラインコンタクト針の方です。では埃が付き難いのはどちらの方でしょうか?それは丸針の方です。楕円やラインコンタクト針が埃をかき集めて、針が汚れやすいのに対し、丸針は埃を埋め込みやすいので針が汚れにくいのです。DL103はそもそも放送局用として開発されたため、内周まで安定に音が出やすい丸針が採用されたのでしょう。103シリーズの多くが丸針で、103S、103D、103Mのみが特殊楕円針でした。針圧も2.5gと重い目で、恰幅の良い低音など、安定性重視の遺伝子を持ったカートリッジであって、分解能を極端に追求した設計ではないのです。
ところで、最新のDL-103SAを聴く機会がありましたので、自分の持っている103、103R(以上は現行製品)、103LCU、103FL、(以上は旧製品)と比較をしてみました。103は高音域の粒子がやや粗いのですが、103Rになってかなり改善されました。103SAになるといっそう改善されました。最近、よく聴いているアルゼンチンの女性歌手ヒナマリア・イダルゴの低音域は、なんとも優しく包み込まれるような感じがして、とっても良いのですが、しかし、伸びきった最高音域はもう少しだけスキッと抜けきって欲しいな?とも思いました。やや抑えられた感じなのです。これはいろんな盤への適応性を保つため、神経質にはならないよう、ぎりぎりのところで留めたのでしょう。103LCUは103Rと音色は違いますが、グレードは似たり寄ったりな感じがしました。
ところが103FLはうまく鳴ってはくれません。とはいっても歪んだり、周波数特性が変だとか、そんなことは無いのですが、音楽が少しだけそっけなくなってしまうので面白さが減ってしまうのです。この1個だけかも知れませんが、以前に聴いたときも同様だったので針は減ることなく新品同様のままです。もしかすると長めのエージングが必要なのかも知れません。
結論として、103シリーズの中で103SAは、たぶん、最も上質のカートリッジだと思いました。しかし、私の場合は必ずしも録音の良くないライブ盤も聴いたりもします。たとえばマリア・カラスとステファノの中南米でのオペラ公演などは、観客の乗りが良いというか、アリアが終わると拍手は鳴り止まず、同じアリアを「もう一丁!」と声が掛かって繰返したりします。そういう雰囲気を知っていてか、歌い手はオーバーな表現をしますが、これがまた受けるのです。おそらく隠し撮りだとは思いますが、なかなか面白いのです。
録音は非常に悪く、さらに次の台詞を教えるプロンプターのささやきが入っていたり、歌い手の足音などもゴトゴト入っています。別な意味で臨場感は豊かなので、あたかもタイムマシンに乗って50年前の中南米の劇場に行って、その舞台裏で漏れてくる音を聴いているかのような錯覚に陥ります。そんな録音状態の盤を聴くのに、もう手には入らない貴重なコンデンサ型や空芯MC型を使うのはさすがにもったいないのです。そこで私は普段着として安定な103Rを改造して主に使っていますが、聴くとなれば3ヶ月で擦り減らしてしまいます。103SAは103Rのおよそ倍額なので、103Rを2個と比較してどちらにするかはかなり微妙です。103SAは針交換をしない限定販売というのが実は最も気になるところです(気に入ったとしても針交換は不可能)。結局のところ、アンナ・モッフォのような、なんとも情緒的な歌い方をして録音にも恵まれている盤なら、コンデンサ型や空芯MC型のように、研ぎ澄まされて、ぞくっとするスリリングな音を期待しますが、103シリーズには安定感を求めているのですから、これまでどおり103Rを2個買って改造して使い切ろうかな?といった感じに傾きつつあります。