RIAAの深いお話 | 中川 伸 |
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レコードはSPやLP時代を含めてレコード会社によっていろんな録音カーブがありました。でも、統一されていないと不便なので、歩み寄り易いよう、これらの平均付近であるRIAAカーブとなりました。1953年から始まり、6年ほどで移行したようです。時定数では3180、318、75uSになっていて、私がソニーでTA-1120Fのイコライザー部を設計していた1969年にはアバウトな表しかありませんでした。なので、ここには載せませんが、それが第1のRIAAです。この時定数を根拠にEXCELで精密計算してみたのが下の表で、これこそが正しい第2のRIAAです。
1975年頃にRIAAがIECへ引き継がれた際に、20ヘルツ以下は聞こえないと云うことで、それ以下をカットしたRIAA-IEC(下図の左)に変更されました。オーディオをずっとやっている人や音にうるさい人々からは、多分、クレームがあったことでしょう。私も当時に知っていればクレームを付けたい気持にはなったでしょう。流石に、これは後に撤廃されたので上の表が標準のRIAAということに返り咲きました。
ところが実際には、さらに第4のカーブがあるのです。それは、ノイマンが推奨しているカーブで、これは録音時に 50kHz以上が平らになるカーブです。なぜそうしたのかといえば、CD-4の出現によって、高い周波数を刻まなくてはならず、その場合にカッティングヘッドに負担がかからないよう50kHz以上は録音時に上げないようにしてヘッドを守ったのです。それを補うべく再生時には50kHz以上を平らにすることによってRIAAよりも上がった再生カーブにしたのです(上図の右)。
つまりRIAAには4つのカーブがあったことになり、少なくともCD-4の1970年頃からは、これが何となく採用されていたと思えます。これは1995年にEnhanced RIAAとして正式に認定されたようです。
もう一つは、あまり知られていないことですがノイマンのカッティングマシンには、アクセラレーターというスイッチがあります。これは低音域の周波数はステレオではなくてモノラルにするのです。こうすることでレコードに入れる音量を上げられるからです。よく知られているコンプレッサーもレコードに上手く入れるための工夫で、フォルテッシモは下げながらピアニッシモは上げるようにしてダイナミックレンジを狭めています。
アクセラレーターでモノラルにする周波数は350Hz、300Hz、250Hz、 200Hzあるいはもっと低い周波数もあったかもしれません。これらはカッティングエンジニアが切り替えて選択できるようになっているそうです。この低い周波数は、左チャンネルと右チャンネルが協力し合うことによって、より大きな音でも溝が規格をはみ出ないようにして入れられるというのが原理です。片手で持つよりも両手で持つ方がより重いものを持てるのと同じことです。実はほとんどのレコードがこのようにしてカッティングされている事実はあまり知られてなくて、コンプレッサーとともに、非常に多く使われているそうです。普及品プレーヤーでも針跳びが生じ難い対策だったのです。
ちなみにCD-4のカッティングは16.67rpmのハーフスピードで行なったそうです。最初のレコードは3種類のジャケットがありますが、音はほぼ同じです。鬼太鼓座2は曲が異なりますが、何れも凄く良い録音なので、オーディオマニアには大ヒットしたそうです。コンプレッサーの件は音楽家が聴けばすぐに分かることなので常識になっていますが、低音域をモノラル化するのはカッティングエンジニアによるノウハウだったのかもしれません。そのため、あえてオープンにすべき情報とまでは考えていなかったらしく、それで知っている人は極く少数なのかも知れません。(2021年1月31日)