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弦楽器における音程とアタックの関係 中川 伸

 狭い意味の弦楽器(ヴァイオリン族)にはギターやリュートのような音程を決めるフレットがありません。なぜかといえば妥協した音程ともいえる平均率には縛られずに、本当に出したい音程が出せるからです。しかし、その代償として、たまに外れる事もあります。例えばツィゴイネルワイゼンだと3,000程の音符が出てきます。悪魔のトリルなら4,000程でしょうか?ということは一回のリサイタルでヴァイオリニストは15,000程の音程を取ることになります。音程の許される範囲は左手が顔から離れた低いポジションでは±0.6mm、中間のポジションでは±0.3mm、顔に近いハイポジションでは±0.2mm程度でしょうか。これはどんなに練習しても1%くらいの確率では外れるものです。つまり一回のリサイタルで150回位は外れてもなんら不思議ではありません。
 しかし音程があまり外れない演奏方法はあります。まずはテンポを遅めにとり、音符の頭を小さく出し、外れていれば修整しながら、合った所でグィと力を入れます。さらにポルタメントやビブラートも上手く使ってズレを目立たなくさせるのです。しかしながらこれには副作用もあります。音楽に勢いがなくなって生命力が失せてしまうのです。そのためタラーとした音楽になるので面白さは半減してしまいます。鼻歌でも口笛でもこれは同じことです。しかし、最近耳にするヴァイオリンはどうもこういう傾向がとても多いのです。楽器はチェロですが、若かりし頃のヨーヨーマにはこんな感じがありました。
 では逆にアタックを重視した演奏をするなら、音程は外れるのは当然と割り切り、躍動感を重視することです。とはいってもこれがとんでもなく難しいのです。弓は60グラムほどですが、それでも往復方向で自由自在に瞬発力の利いたコントロールをしたり、クイックターンをさせるには高い技術のみならず筋力も必要だということになります。それ以前に音楽には生命力が必要という感性が必要です。そして、「ここぞ」という部分ではキッキッとした音を出すのです。私の知り合いのアテフハリムさんは情熱的なので勢い重視の演奏です。本人から直接に聞いた訳ではありませんが「音程が外れて何が悪い」と言ったそうです。私の中ではハイフェッツはアタックがありながらも、音程は正確ですから歴史的な観点からもこれは超絶的です。
 このことを分かり易くフィギユアースケートに例えるなら、筋力を鍛え、時には失敗するリスクも恐れることなく4回転に挑戦するのと、3回転半に抑えて無難にまとめるのに似ていると私は思っています。どちらが見ている側からすれば面白いかは明白でしょう。以上は生演奏やライブ録音の話であって、スタジオ録音では何回かやり直し、ミスの無い良い所だけを繋げ、商品として傷の無いように仕上げます。
 日本の音楽業界は30年ほど前から「巨匠よりアイドル」という路線にシフトせざるを得なくなってしまいました。つまり「高度な技術や筋力や感性よりもルックス」という流れと、タラーとした音楽は大いに関係があると私は思っております。
 私は、優しさとか激しさとか厳しさといった音楽的な躍動感(ダイナミズム)、つまりフレーズやストーリー(ドラマ)を聴きたいのです。巨匠といわれたスターン、シェリング、リッチ、ミルシティン、シゲッティー、ギトリス、コーガン、ヌヴーといた人たちは時代の要求も関係していたかも知れませんが、いずれもここぞというときのアタックは有りました。2011年4月25日

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