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カートリッジのはなし 中川 伸

 私が最初に、たまたま買ったカートリッジはグレースのF-6とナガオカのNM-22Eでした。次に本格的に選ぼうと大阪の有名店で、ずうずうしくも海外有名製品も含めて10個ほど聞かせてもらって、自信を持って選んだのが空芯MC型のFR-1とFTR-2の専用ヘッドアンプでした。圧倒的に歪感が少なく、澄んで美しい音でした。持ち帰って聴いたアーヨの四季で、秋の2楽章のチェンバロなどはこの上なく繊細だったのが印象的です。1965年で、高校2年生のことでした。1967年にFR-1MK2になってさらに改善され、すっかりこの虜になってしまいました。これでエリー・アメリンクのカンタータやクリスタ・ルートヴィッヒの歌曲や、バッハやベートーベンやショパンのピアノ曲などをいっぱい聴きました。たぶん10回以上は針交換をしたと思います。他の高価なカートリッジもいろいろ聴いたのですが、私にとっては長い間、これ以上のものが見当たりませんでした。
 1970年にスタックスのコンデンサーカートリッジCP-Xが作られ、そのブースターアンプになかなか良いものが無いとのことで、なぜか縁があって専用アダプタPOD-Xを改良したPOD-XEのブースターアンプを1972年に設計することになりました。林尚武社長からは「コンパクトな半導体アンプだけれども、真空管に似た柔らかさも持っている。」と気に入られました。実はNch FETとPNPの直結2段アンプでした。このシステムの音は極めて繊細で、天国的な美しさを持っていたのですが、安定に使いこなすには苦労してコツを習得しなくてはなりませんでした。
 1973年のスタックス時代にコンデンサーカートリッジを、安定にしようとPLLやFMやいろんな方式をやったのですが、SN比がなかなか取れませんでした。そこで、エレクトレットのCP-Yを設計することになりました。針先の音をどうしても拾いたいという林尚武社長の意向から、カンチレバー先端にエレクトレットを配置しました。音はCP-Xと同様に非常に繊細で美しいのですが、長期間使うと埃で感度が低下してしまい、左右のアンバランスが出たりもしました。
 私は1976年にフィデリックスを設立し、超ローノイズヘッドアンプLN-1を発売したのですが、同時期にソニーから空芯MC型のXL-55が発売され、これも大いに気に入りました。出力電圧がFR-1MK2より大きかったことがなんともありがたかったのです。1977年にXL-55PROが出て、これも買ったのですが、ヘッドシェルの自由度が無いためXL-55の方が好きでした。1980年になってFR-1MK3が発売されたので、すぐに秋葉原の販売店で買ったのですが、なぜか気に入らなくて、使うのをあきらめました。後に、買ったお店でたまたまこのことを話したら、なんとFR社と交渉してくれました。そして顕微鏡で見たら針は全く減っていなかったとのことで、FR-1MK2に交換してもらえました(後の1994年頃に、元FR社長で設計者の池田勇氏にこのことを話したら、MK3になっても良くならないのは当然。あれはドイツからの要望でフラットにして欲しいと言われたもの。フラットにしても音は良くならないよ!といったが、それでもOK!とのことで作ったものだから。と言っていました)。
 その後に、ナガオカのJT-RV、ヤマハのMC-1S、ソニーのXL-MC9、パイオニアのPC-70MC、ビクターのMC-L1000、クリアオーディオのPradikatなどを使うことになります。基本的に私は空芯MC型とコンデンサー型の音が好きだといえます。ちなみにMC型は電池式のヘッドアンプかMC専用ローノイズ・ハイゲインEQアンプばかりを使っていて、トランスの音やAC電源式ヘッドアンプの音は好きではありません。
 ただ、どうしてもコンデンサーカートリッジの音が忘れられなくて、フィデリックスで1990年頃にコンデンサーカートリッジを発売しようと作りました。 (以下はFIDELIX製コンデンサーカートリッジの写真です。)

 振動系構造はビクターのMC-L1000によく似ているため、音はこれに最も似ています。カンチレバーを伝わる前の情報量が多くて鮮明な音を拾いますが、金属ボディーにして低音もしっかりとさせました。コンデンサー型のせいか、なんとも優しいきめの細かさと、臨場感が加わり雰囲気はとてもGOODです。しかし、電極の前後位置の許容誤差は髪の毛の10分の1である5ミクロンと、MC型よりも遥かにシビアなため、作るのは本当に大変なので、5個作ったらすっかり疲れてしまいました。
 構造ですが、カートリッジ内部には1個の発振器(30MHz)と2個のスロープ検波器が内蔵されています。右のアースと左のアース間に6Vを加えると、検波されたオーディオ信号が出てきます。これは、何と200万分の1PFの微小な静電容量変化さえも検出しているのです。超低ジッターの発振器を作り上げなくてはとても達成できない性能なので、超低ジッター発振器のノウハウもこのときに取得しました。ここで作った高感度検波器を使えば、今問題になっているCDプレイヤーのクロックジッターは即座に分かるでしょう。このカートリッジはどうしても欲しいという人に1個だけ売りました。本来は販売するつもりで作ったものですが、現在の規格では電波を出すので、たぶん売れないのではないかと思います。ですから、もう自分専用の幻のカートリッジとなってしまいました。(すみません!)
 今となっては空芯MCもコンデンサーカートリッジも貴重なものなので、必ずしも音質に恵まれていない実況録音盤などを聴くには、普段着として、DL-103RやAT-F3Uなどを改造して使っています。これらの改造方法については近日中に書くことにいたします。

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