LPレコードを最大限に生かす方法(その5) カートリッジのマグネット強化など | 中川 伸 |
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私は早い時期からMCカートリッジを使い始めていました。FR社がFR-1を発売して間もない高校2年生の頃からです。そしてFR-1MK2の針交換が最も回数が多かったように思います。そんな訳でFR-1シリーズを見かけるとついつい集めてしまいました。最近、FR-1シリーズを久しぶりに聴き直して見ると、非常にすばらしいのです。当初から音は非常に繊細で、歪み感なく、透明ではあったのですが、出力電圧が少し低い目なので、若干使いにくく、音もほんの少し細い目だと思っていました。しかし、今になって、改めて聴き直して見ると、出力電圧は何ら問題なく、音も細さをほとんど感じさせません。私が今、使っているプレーヤーやアンプや使いこなしのノウハウが進歩しているからでしょう。写真はFR社の空芯MC群です。
そんな訳で手持ちのFR-1シリーズを全て聴き直してみました。そうしたら出力電圧に結構ばらつきがあるのです。出力電圧の低いものはボリュームを上げればつじつまが合う理屈です。しかし、こういったものは音の元気もなぜか落ちているのです。きっと磁石が弱っているのだろうということで設計者の池田勇氏に電話をして聞いてみました。氏とは結構長い付き合いをさせて頂いているからです。そうしたら、その当時の磁石はばらつきが結構あって、弱くなりやすいものもあるので、再着磁すれば、また何年かは持つだろうとのことでした。なお、ダンパーは良い素材を使っているので1時間ほど鳴らせばほぼ復帰するとのことでした。どおりで良い音がした訳です。私は気に入ったものはついつい集めてしまう癖があるのですが、たくさん持っていたからこそ磁石のばらつきと劣化が判ったので今回はそれが役立ちました。
私はスイッチング電源のトランスを頻繁に設計していますが、その場合はコアが飽和しないよう約0.3テスラ(3,000ガウス)以下に設計します。しかし、再着磁をさせる場合は逆にその10倍以上の磁力を約1ミリセカンドだけ、発生させれば良いので、そんな装置を設計し、再着磁をすることにしました。先ずは磁石の漏れ磁束から、強さを推察します。用意するものはオイル充填の方位コンパスと定規。いずれも100円ショップで売っています。北に向かってテーブルにすわり写真左のように定規とコンパスを置きます。周りに磁性体が無いか約40cm円内で同じ向きになることを確認します。西側からカートリッジのピン側を近づけ、コンパスが時計方向に動けば、N極同士が反発しているのでピン側がN極ということになります。反時計方向に動けば針先側がN極という訳です。次は写真右のように45度動く距離を定規で計ります。これが磁石の強さの目安になります。あくまでも漏れ磁束なので、同じ型番や同じ構造なら、比較ができるという意味の目安です。つまり、この方法で磁石の方向と強さが分かることになります。再着磁をすることで磁石が強化されたなら、より長い距離でも45度動くことになります。
さて、磁力を調べ、再着磁をしてみるとあまり落ちていなかったものや、随分落ちていて、ぐっと上がったたものや、再着磁をしても水準にまで上がらないものなどさまざまです。しかし、音を聴いてみるとほとんどはずいぶんと元気になりました。友人にこのことを話し、彼のMCカートリッジ3個を再着磁してあげたら、どれも音が元気になり、特に低音の力感が上がったと驚いていました。ウッドベースの音程感はエレキベースと比べればもともと判り易いのですが、そのエレキベースの音程感までもが良く判かるようになったと感激していました。再着磁をしたのはDENONのDL-103D、FRのFR-1MK3とMC201(輸出仕様)ですが、特に103Dは6dBほど出力電圧が上がったと喜んでいました。そして、こんなに変わるなら、再着磁のサービスを始めても良いのではと言われたので、それならばということで調子に乗ってやってみることにしました。磁石の方向が、オルトフォンやデノンやオーディオテクニカのように針先から根元へ一方向に磁束が向いている単純なものは全く問題有りません。しかし、磁石を近づけてみれば判るのですが、磁気回路が複雑なため、再着磁の出来ない機種は、把握している範囲で、FRのFR-7やFR-7f、ソニーのXL-MC1やMC3やMC5やMC7やMC9、ヤマハのMC-1SやMC-1X、パイオニアのPC-50MCやPC-70MC、クリアオーディオのMC型で、それ以外は殆どがOKでしょう。写真下はやはりお気に入りのソニーの空芯MC群です。
3テスラ(30,000ガウス)という磁力は、気を抜いて着磁しますと、カートリッジが数メートルもすっ飛んでしまうほどのすごい力です。私は壊れたカートリッジで何回も練習し、安全な着磁のコツがようやくつかめました。また、再着磁をするとコアまでも着磁される可能性がありますので、再着磁後にコアの消磁をし、電動のスタイラスクリーナーと実体顕微鏡を使ってカンチレバーやダイヤモンドチップ周辺の汚れも綺麗にします。コアを消磁してもオルトフォンやデノンやテクニカは磁束の方向が90度ずれていますのでマグネットは弱まりません。なお、MMカートリッジも針を外してマグネットの再着磁とスタイラスのクリーニング、ボディーのみでコアの消磁が出来ます。写真はデマグネタイザー3種類と電動スタイラスクリーナーとわざとピンボケにした着磁装置です。料金ですが1個なら7,000円、2個なら12,000円、3個以上は1個当たり5,500円(送料は一律600円)ということで暫定的に始めることにしました。知らず知らずのうちにくたびれてしまっているカートリッジを、本来の音質に戻して聴いてみるのはいかがでしょうか?
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