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音程の雑学 中川 伸

 音程が良いとか悪いとか簡単にいいますが、実はそんなに簡単なことではありません。まずは基本的な和音のことですが、和音は簡単な整数比であると定義できます。うなりや濁りが少なくなるからです。そこで、この原理に基づいた純正律の調律について先ずは説明します。イ短調の主音であるラの音は国際標準で440Hzと定められています。実際には少しだけ上げた方が華やかな響きになるので448Hzくらいまでの範囲で上げることもあります。440Hzとすると、ハ長調の主音である良く使われるドは後述しますが、6/5倍の短3度上がった528Hzになります。このハ長調の主音のドを新たな基準とすると、最も簡単な整数比は1:2で、これは1オクターブ上のドで1056Hzになります。
 次に簡単な整数比は2:3の完全5度でソ(792Hz)の音になります。以下3:4は完全4度でファ(704Hz)、4:5は長3度でミ(660Hz)、5:6は短3度でミ♭(633.6Hz)となります。5:7は減5度でソ♭(739.2Hz)、5:8は短6度でラ♭(844.8Hz)、3:5は長6度でラ(880Hz)となります。
 長2度のレ(594Hz)は完全5度上がって完全4度下がるので、3/2×3/4=9/8より8:9となり、短2度のレ♭(563.2Hz)は完全4度上がって、長3度下がるので、4/3×4/5=16/15より15:16となります。短7度のシ♭(938.667Hz)は完全4度上がって、完全4度上がるので、4/3×4/3=16/9より9:16となり、長7度のシ(990Hz)は完全5度上がって、長3度上がるので、3/2×5/4=15/8より8:15となります。
 これで純正律のうちのツァルリーノ音律が完成しました。他にピタゴラス音律(ミは64:81、ラは16:27、シは128:243)も有りますが、単に純正律と云うと、数字が小さくて簡単なツァルリーノ音律を指すようです。
 このように調律しますと、少なくともハ長調の曲を弾く限りは、ドミソもドファラもシレソのどの和音でも簡単な周波数比が保たれるので、うなりや濁りが無く、非常に美しい響きとなります。問題は他の調に移調や転調をした場合に、汚い音が出ることです。これを解消するため、2の12乗根の1.059463094倍ずつを、複利的に計算した半音単位の音律を、鍵盤に割り当てたものが平均律で、移調、転調によってどの調でのズレも均等にしたものです。目立つような汚い響きも出ない代わりに、ものすごく澄んだ響きも出ないのですが、現代のピアノはこれこそが基本的な調律です。
 なお、440Hzの1オクターブ上は880Hzで、2オクターブ上は1760Hzと思うかも知れませんが、ピアノの調律では少しずつこれよりも上がってゆきます。低い方は逆に220Hzよりもほんの少し低くしなくては音が合いません。結果的にピアノの鍵盤の両端ではおよそ33セント(6分の1音)ほどズレますが、このことを伸張率といいます。原因は弦に太さがあるため、正確に2倍音や3倍音の高調波にならず、少しずつ高めになってゆくからです。時間とともに波形が変わるので厳密には周期波形とはいえず、フーリエ変換ができません。
 さて、調律師によっては、わざと先ほどの平均律から少しずらす人もいます。音楽の調には長調が12、短調も12の計24があり、よく使われる調とあまり使われない調があります。そこで、よく使われる調を優先して良い響きにするのだと思います。このような考えはヴェルクマイスターなど過去にもいくつかありますから、多分、周波数を計れば似ているのだと思います。
 弦楽器のように自由に音程が取れる楽器で、うまい人たちが合奏をすると、自然と、うなりの無い澄んだ気持ちの良い響きになるように音を合わすので、純正律的になるといわれています。歌についても同じで、オーケストラ伴奏だと、聴き慣れたピアノの音程とは少し異なることがあります。このように音程はそもそも矛盾を含んでいるものなので、許される幅が存在し、真に正しい音程など存在しないともいえます。
 ヴァイオリンコンチェルトはオーケストラをバックにソリスト1人ですが、それでもソロヴァイオリンが聴こえるのは、少し早めのタイミングで音を出したり、ほんの少し高い音程を出したりします。パールマンやグリュミオーのコンチェルトを聴くとほんの少し高い音程であることが分かりやすいと思います。歌でもローレンガーは高い目に歌いたがるし、サザーランドは低い目に歌いたがる傾向があります。私はこのことを某音大助教授のテノール歌手に訊ねたら、本人にとってはピッタリ合っていると思って必ず出しているものだし、どちらも許される範囲にはしっかり入っているとのことでした。つまり、そういう音感を持ち合わせているからとのことでした。逆にいえば聞き手の音感と合う、合わないもあるということでしょう。カラスは、許される音程の幅を活用し、暗い表現や激しい表現がとっても上手いと私は思います。

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