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弦楽器の雑学 中川 伸

 西洋音楽は和声学的に良く出来ていて、弦楽合奏では純正調になりやすいようにうまく考えられています。ヴァイオリンの開放弦の音(括弧内はおよその周波数)は高い方から3分の2ずつ周波数が低くなって、ミ(660)、ラ(440)、レ(293)、ソ(196)と完全5度の間隔です。ビオラは、ラ(440)、レ(293)、ソ((196)、ド(130)で、チェロは、ラ(220)、レ(147)、ソ(98)、ド(65)と同じく5度間隔です。
 しかしコントラバスは4分の3ずつ周波数が下がって、ソ(98)、レ(73)、ラ(56)、ミ(41)の完全4度の間隔ですが、最近は4弦ではなく5弦のものもあります。この場合はさらに低い弦が加わり、その調弦は5分の4の長3度低いド(33)が一般的なようです。ドだとビオラやチェロにも含まれているため調和が良いからでしょう。しかし4度調弦を守ってシ(31)に合わせることもあるようです。なぜコントラバスだけは4度に合わせるのでしょうか?それは音程の間隔が広くなるので5度調弦ではもはや指が届かず、演奏不可能になるからです。
 ところで、ゲリー・カーによるブルッフのコルニドライやシュトラヒャーによるボッテジーニのコントラバス・コンチェルトなどのように、コントラバスが主役の場合は、ソロチューニングという特別な調弦法をします。ソロチューニングの場合は、1音(周波数で約12%上げた長2度)高くチューニングし、楽譜を1音下げて書き換えます。弦も少し細いのを使って明瞭度を上げています。ですからコントラバスであっても、あのような生々しい音がでるのです。
 ちなみにコントラバスの楽譜はチェロと同じヘ音記号を用いますが、実際の音は楽譜よりも1オクターブ低い音を出します。本当の音を楽譜に書くと補助線が多くなりすぎるためです。テノールもト音記号で書きますが、実際の音は楽譜よりも1オクターブ低い音を出しています。本当のヘ音記号で書くとやはり補助線が多くなるからです。
 なお、弦楽器の弓はコントラバスが最も短く、チェロ、ビオラ、ヴァイオリンと長くなってゆきます。なぜでしょうか?それは大きい楽器ほど強い圧力が必要となり、かりにコントラバスの弓が長かったとしても、弓の先っぽでは力を入れられないからです。
 私は、プロのコントラバス奏者にお願いし、コントラバスを弾かしてもらったことがあります。プロの人たちは、めったに自分の楽器を触らせてはくれません(特に弦楽器は)。しかし、どうしても弾いてみたかったので、私は何年かチェロを習っていて、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」やバッハの管弦楽組曲などを弾けることを説明し、なんとか弾かせてもらいました。最初の1音からまともな音が出たので「おっ!うまい!」と驚いていました。4本の弦のアップとダウン、2本ずつのハーモニー、指ではじくピチカートなどをやってみて、本物の音を、この時とばかりに体験しました。
 明瞭な音程感、はち切れんばかりの弾力、ズーンと腹に響く振動などを、しっかり頭に叩き込みました。生の音を聴くだけではなく、楽器に触れることで理解は一段と深まります。スピーカーにはよくありがちな、箱鳴りのようなモゴモゴした感じや、ゴムのようにドローンとした音調は非常に少ないです。
 ヴァイオリンは「キラキラ星」程度なら弾けるのですが、機会があれば、ストラディヴァリウスかガルネリウスのような名器で「キラキラ星」を弾いてみたいと叶いそうもない夢を見ています。

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