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トーンアームとターンテーブル5 プレーヤーについてpart1 中川 伸

以下の記述はイメージや推測ではなく、私の実体験(主に失敗例)に基づいたものです。また、記述の都合から、時系列にはなっていません。ただし、アプローチが変われば、別な結果になることもあり得ますので、あくまでも一つの参考としてください。

さて、モーターのトルクは強いのと、弱いのではどちらが良いでしょうか?多くの人が強い方が良いと思うでしょう。では、トルクムラや振動は大きいのと、小さいのとではどちらが良いでしょうか?多くの人がこれらは小さい方が良いと答えるでしょう。でも、トルクが強くて、トルクムラや振動の少ないモーターは、メーカー側の努力にも関わらず、なかなか存在しないのです。ローターを斜めにスキューしても、慣性の大きいアウターローターにしても、ダイナミックバランスを精密にしても、コアレス構造にしても、有極構造による円運動には限界があるのです。

静かに回るモーター例としては、2相や3相といった回転磁界に同期して回るヒステリシスシンクロナスモーターやシンクロナスモーターです。これらは電圧を変えても回転数は変わりません。1978年から1980年頃にかけて、30種類ほどのヒステリシスシンクロナスモーターを使い、位相とレベル差をリサジュー(又はリサージュ)で見ながら、できるだけ正確な円運動に整えて、色んな電圧で回してみました。進相コンデンサー値の微調整やコイルに直列抵抗を入れたりして振動の最小点を注意深く見つけるのです。いずれもが止まる寸前にて最も音が滑らかで、かつ歪感が少なく純度の高い音がします。理由は振動やトルクムラが少ないからです。溝が微細なレコードからすれば僅かな振動やトルクムラであっても、音を濁らせる大敵なのです。

では、トルクが弱ければ大きなアタック音にて溝の抵抗が増え、腰砕けになると思うでしょう。しかし50Hz程度で回るモーターは、そもそも、そこまで急速に踏ん張れるものではありません。現実にスタート時の立ち上がりを見ても音楽に比べればゆっくりなものです。では、急なアタックでもへこたれない役目、それはターンテーブルの慣性モーメントが受け持ち、急ブレーキが掛かりにくなっているのです。おそらく大方の直感とは異なった動作ですが、機械インピーダンスという概念を理解するなら、これこそが事実です。私が使っている1例のノッティンガムは手で回さなくてはスタートができないほどに静けさ重視の設計です。最近では、他からも、トルクを弱める機能を敢えて搭載したり、寒い環境では定速回転に達しない程にまで弱めた機種が発売されました。

次に軸受ですが、太くて長くてしっかりした高精度な軸受と、細くて、さほど長くもない軸受ではどちらが良いと思いますか?ほとんどの人が前者が良さそうに思うでしょう。1983年頃に、太くて長い製品を実際に触って音も聴きましたが、軸受が恐ろしいほどにオイルの粘性抵抗で粘るのです。糸ドライブの重量級ターンテーブルなのに、思いっきり回せども数回で止まり、折角の慣性モーメントを打ち消しているのです。シャフトを入れる際にも空気が邪魔をして、長い時間が掛かりました。音は響きが抑えられた鈍重な感じで、決して響きが宙を舞うかのような軽やかで嬉しくなるような音は出てきませんでした。

実はこのプレーヤー以前に不思議なほどに音の良い、しかも貧弱そうなプレーヤを見つけていました。それは東芝のシステムコンポーネントに付属していたもので、シャフト部はボードから上に35mmほど飛び出していて、ターンテーブル側に設けた筒部と嵌合し、その間に1個のボールがありました。シャフトの直径は6mmと細く、いくらかのガタも有りました。ところがベルトを外してターンテーブルを回すと驚く程に長く回り続け、音は抑圧感が無く、とても自由で開放的でした。これも多分1983年頃です。後に、ロクサンから軸受の直径が5ミリのものが発売されたので、軸受けによる抵抗の重要性に気が付いたのだなーと思いました。後にロクサンを聴く機会があり、思っていたような音だったのはよく覚えております。私は多くのプレイヤーを分解したのですが、シャフトのウェスト部分を細くしているのが数機種ありました。粘性抵抗の悪さについて分かっていたのです。

軸受の精度が良くないなら、ターンテーブルがグラグラすると思うでしょう。でもシャフトは重量を支えている1点以外は油膜で覆われているのでほぼ浮いた状態です。ピアニッシモの振幅に比べれば、ずっと厚い油膜による隙間が存在しているのです。そのため針先からの反作用を受ける音溝を支えるのは、これまたターンテーブルの重量と剛性なのです。

すると、ターンテーブルは重い方が良さそうに誰しもが思うでしょう。私もそうでした。そこで直径40センチで重量が30kgの砲金製ターンテーブル(慣性モーメントが7.2トン)を1981年に作りました(無線と実験1982年5月号掲載)。さすがに最初は良い音でしたが、かなり短期間で、不思議なほどに音が劣化しました。それで、あれこれ調べたのですが、軸受をばらして驚きました。尖っていたはずのシャフトの先端がすり減って平らな面が直径8mmほどになって摩擦が大きくなってしまっていたのです。要するに重すぎると極端に寿命は短くなるのです。これはその後にエアーフロートに改造し、3リットルのビール缶を徐々に増やして4個まで経由させ、空気の脈流を少なくしました。でも、結局のところ使わなくなりました。

その後はガラードを使ったのですが、これは上に尖った軸受がねじ2本で下から簡単に交換できる構造になっています。そしてターンテーブルの重量は3キロ位に抑えられています。この位だと数年以上は実用に耐えられると思います。ガラードは現実をわきまえたバランスの取れた設計だからこそ、今でも人気があるのでしょう。やたら重いだけのターンテーブルはハッキリ言って短命です。

駆動方式ですがアイドラ式はモーターのトルクもトルクムラも振動も伝えやすいのですが、ワウフラッターは少ないので、ピアノなどには適します。一方、ベルト式は、クッション性が高いので、トルクムラや振動は抑えやすいのですが、ベルトの弾性とターンテーブルの重さとで共振が起こり、その周波数でワウフラッターが出やすいのです。私はワウフラッターメーターで観測しましたが、気まぐれに出ているのではなく、この共振現象によって規則的に出ているのです。ゴム糸に錘をぶら下げ、下に引いて離せば周期的に上下運動を繰り返すのと同じです。ベルト式には、内周ドライブと外周ドライブがありますが、私は内周ドライブの方が好きです。なぜならターンテーブルが1周する間のゴムの変形によるエネルギーロスが少ないからです。自転車のタイヤも空気が減ればゴムの変形量が増えて抵抗は増えます。ベルト式は澄んだ高域になりやすいので、弦や女声に適します。

糸ドライブではステンレス糸から、手術用の柔らかい糸までを色々と使いましたが弾力によって音は異なり、うまくマッチングするとなかなか良いのですが、稀に結び目でプッツンと音がするので、これには悩まされました。また、糸の耐久性も短いです。ここまでのことをわかりやすくまとめると、モーターは乱暴な暴力団で、ターンテーブルは天使で、軸受は天使の足を引っ張り、アイドラーやベルトや糸は仲介者なので、これらのバランスこそが大切です。

レコードの録音は、将来にできる理想的な機材を使った場合に初めて良い音が出るような録音をしてはいません。その当時の現実の機材で聴いて、丁度良いようにいじって作られています。そのいじり方こそがノーハウという一面もあるので、理屈が良いからといって必ずしも良い結果にならないのがオーディオの難しくて面白いところでもあります。僅かなトルクムラがあると高域は少しだけハスキーになり、低音はゴリゴリと聴こえるので力があると感じられる場合もあります。ターンテーブルシートがソフトタイプかハードタイプかによる相性もあります。part2に続く(2021年9月29日)

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