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ES9018について 中川 伸

ESS社のES9018は32bit/500kHzサンプリングに対応するという、何とも凄い最新DACチップです。このデータシートは秘密保持契約にサインをしないと貰えません。また、関連する内容を公開するにも制約があるので、可能な範囲だけに留めさせて頂きます。
DACにはマルチビット型と1ビットのデルタシグマ型があることはよく知られています。因みにデルタとは変化分、シグマとは積算の意味です。例えばあるお店のある日の売り上げが10000円で翌日が9800円でその次が12000円だとします。これをそのまま記録するのがオーソドックスなマルチビットの概念です。しかし-200円、+2200円と変化分だけを記録し、これを最初の10000円に次々と積算してゆくことで、売上金額を再現するのがデルタシグマ型に相当します。マルチビット型で32bitの精度を出すのは、ほぼ不可能です。また1ビット型なら数GHzといったサンプリング周波数が必要になるので、いずれにしてもほぼ実現困難です。しかし、ES9018は6bit程度のマルチビットDACをデルタシグマ型で動作させているようです。つまり精度とスピードの上手いバランス点で動作させた「良いとこ取りのハイブリッド方式」なのです。すると100MHz程度のクロックであっても32bit/500kHzサンプリングが実現できるのです。こんなすごい性能でありながらも、サイズはたったの1cm角で、消費電力もたったの100mWで動作可能です。革新技術とはかくあるべきという見本です。そこで、これに見合うようCAPRICEはコンパクトにしました。
入力はSPDIFとI2SとDSD信号を自動判別するのでDAIは不要です。内部PLLはデジタル方式らしく、出力はほぼスイッチドキャパシタによるものです。クロック周波数はサンプリング周波数と何ら関係なく自由に選べますが、上げるほどに性能は上がります。しかし、100MHzを超えると動作保証外になるので、CAPRICEでは96MHzで動作させています。しかし、ジッターを減らすには高すぎる周波数なので、とても苦労をしました。クロック性能はそのままDAC性能として現れます。色々分かってきたことはジッター性能のうちでも特に重要なのはスカートの広がり方です。僅かしか広がっていないように見えても数10Hzでは大きなレベル差になるからです。ジッターが多いと澄んで、きめの細かい優しい音はなかなか出てきません。また、デルタシグマ方式でしっかりした低音が出るのかについては、いくらか不安でしたが、これも各電源を分け、干渉を防ぐ工夫をすることで心配無用となりました。
ES9018は音質面でもたくさんの設定ができるようになっています。実はESSのデフォルト設定を最初は疑って掛かり、もっと良い設定があるのではないか?と思っていました。しかし試聴テストを繰り返すと、デフォルト設定がほぼベストだったのです。DACチップを開発するには大金が掛かるので、ESS社はいろんな設定を用意し、それらをおそらく音楽家やオーディオ評論家やオーディオマニアに聴いて貰って、結果の音かったものをデフォルトにしたのではないかと推測しています。ですからCAPRICEでは音を決める設定の殆どがデフォルトになっていて、PLLのバンド幅だけを、Lowestに狭めました。これは入力信号のジッター削減効果を最も高めた設定です。このジッター削減機能こそがES9018の最大の特徴で、最大の秘密でもあるようですが、当然ながらその動作については私もよく分かってはいません。がしかし、その効果なのか、クロック交換したPD-F25AとCAPRICEを光ケーブルで接続しても世界最高レベルのジッター性能が得られるのです。
以上からして内部は殆どがパルス回路であってアナログ回路は存在していないのではないかと想像しています。でなければ100mWの消費電力は達成できないでしょう。ES9018はデジタルが1.2Vと3.3V、アナログも1.2Vと3.3Vが左右なので6個の電源を要求します。CAPRICEでは、これらがいずれも低インピーダンスでローノイズなものになっています。そしてクロックには3.8V、IVコンバータ用には±15Vの超ローノイズ&クイック応答電源が左右独立、そして秘密の電源が1個なので合計12個の電源が入っています。ちなみに3.3V電源はLT1763なので78L03の10倍位は高価です。
つまり、DACとしての重要部分はESS社にて高度な設計がなされていて、これに良質なデジタル信号と良質なクロックを入れ、良質な電源で動作させれば良質なアナログ信号が出てきます。これを良質なアンプと良質な電源で増幅すれば優れたDACができるということになります。そこでクロックやOPアンプや3端子レギュレーターをディスクリートで作りましたが、これらの周辺回路と、多くの機器を接続すると発生しだすEMC問題も含め、私の最も得意とする部分が残りの部分だったということになります。あとはPICマイコンで内部レジスタを操作すれば良いだけでした。
ES9018は市販の水晶発振器と市販のOPアンプや市販の3端子レギュレータを使ってもそこそこの性能や音質が得られます。しかし、以上のようなこだわった使い方をすると、思いもよらない性能や音質が得られます。因みに352.8kHzの再生に挑戦すると、44.1kHzの音もクオリティーアップします。非常に高価なDACチップですが、それだけの価値はあると私は思いますし、使いこなすのが楽しみなデバイスです。

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