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LM3886(パワーアンプ用IC)の究極的な使いこなし術 中川 伸

 LM3886は普通に使ってもそこそこの音が出てくれます。しかしこれを使いこなすと、驚くほどの音が出てきます。そこで、新型パワーアンプCERENATEにはこのLM3886を使いました。
 第一のポイントは何といっても超強力な電源です。
 交流を整流し、平滑して直流にしますが、平滑コンデンサーの容量が大きいほど直流に近づきます。また、負荷電流の変動に対しても平滑コンデンサーが大きいほど、変動が少なくなります。さて、その蓄えるエネルギーは1/2×ファラッド×ボルト×ボルトというジュール量になります。これを実際のCERENATEに当てはめると、2次側は±32Vの電源が左右2チャンネルになっていて、そのひとつが4700μF×2パラになっているので合計37600μFなので、19.3ジュールになります。1次側は2200μF×2パラで4400μFになっていて、これに140Vが加わっているので43.1ジュールになり、両者を合算すると62.4ジュールになります。これは音を聴きながら増やしていった結果です。コントラバスによるカッガッという凄みまでをも表現するにはここまで必要だったという訳です。このエネルギーを全て2次側で得ようとするとコンデンサーの総量は12万μFという、とてつもない容量になり、こんな大きいものはCERENATEのサイズには入りません。スイッチング電源は高い電圧でエネルギーを蓄え、しかも電圧の2乗で効くからこそ達成できたという訳です。単に容量を大きくするだけではなく、音質に影響のある部分には音響用の高品質なものを使用しています。
 一方、トランスは高い周波数で動作をさせると小型にできます。CERENATEはピンポン玉程度のコアサイズですが、220kHzで動作をさせているため、何と300W程度を連続して出せます。コアに溜めるオンオフ方式ではなくコアには溜めないオンオン方式なので、瞬間的にはこの数倍が出せますから、いかに強力な電源であるかが分かると思います。
 このようにスイッチング電源は小型であっても強力にできますが、欠点としてはスイッチングノイズを発生させます。しかしCERENATEに使っているセリニティー電源はサイン波で動作をさせることで世界最小レベルの超ローノイズ性能になっています。高域のギラギラと輝きすぎるクセを徹底的に排除した結果で、スイッチングノイズはラジオ電波以下になり、一般のスイッチング電源の3000分の1という少なさです。このノイズを問題にするなら、もうラジオ電波の無い世界に行かなくてはなりません。

 ACインレット、ヒユーズホルダ、電源メインスイッチ、出力リレー、コネクタの接点はありません。

 第二のポイントは出力リレーと出力インダクタが音質に与える悪影響を排除したことです。  LM3886は電源投入時のポップノイズが出ないような工夫がされています。このため出力にポップノイズを止めるためのリレーは不要です。いかに太いスピーカーケーブルを選んだとしてもリレーの接点はピンポイントでしか接触していませんので、このメリットは、ディスクリートで作ったアンプに出力リレーを付けたものと同等以上になってしまいます。
 また、NFBアンプは容量性の負荷条件では発振することもありますので、その防止用として出力にインダクタを入れます。発振しない条件で、このインダクタをショートした音を聴くともう元には戻れません。そこでこのインダクタをNFBのループ内に入れることで、音質的な劣化を補償しています。具体的には、約50kHzを境にし、発振に関係する高い周波数はインダクタの前から帰還を掛け、音に関係する低い周波数はインダクタの後ろから帰還を掛けます。この発想を発展させたものがリモートセンシングで、スピーカー端子の信号を帰還させて、スピーカーケーブルによる音質劣化を補償することもできます。
 なおフィデリックスのパワーアンプは1980年発売のLB-4(A級&リアルタイムBTL、DCアンプ)の時代からポップノイズは出ないようにすることで出力リレーを排除したり、出力インダクタの悪影響を補償したり、世界初のリモートセンシングをしています。
 第三のポイントは完全DCアンプにしたことです。
 果たして直流まで増幅する必要が有るか無いかの議論はともかくとして、カップリングコンデンサーによる音質差は確かに存在します。カップリングコンデンサーをショートした音を聴くと、もう元には戻れません。そこで、CERENATEは完全DCアンプにしました。LM3886は入力がFETでは無くパイポーラトランジスタなのでバイアス電流が流れますが、この電流もキャンセルするように調整をすると、全く問題なく完全DCアンプにできます。するとなんともストレートでピュアな音が得られます。
 第四のポイントは位相補償部品の選定や配置やパターンの設計ですが細かな電流の流れるループを最小にしたり、電流が混ざらないように細心の注意を払って設計しています。
 以上のようにいろんな工夫をすることでLM3886を使いこなすと、信じられないほどのクオリティーが引き出せます。2009年03月08日

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