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ES9018におけるPLLのバンド幅について 中川 伸

 ES9018はPLLのバンド幅を多様に設定できます。世間標準はおそらくMid-high相当(CAPRICEでは設定できない)ではないかと推察致します。というのはCAPRICEがLowestで安定する条件であってもMidで音飛びするトランスポートが3件報告されていて、これらは同一メーカーです。しかし、これらが音飛びするという話を他では聞きませんので、世間標準はMid-high相当の安全設計になっているのではないかと推察する根拠です。ESSは整った条件だと非常に良い音質結果が出せるLowestのポジションを設け、CAPRICEは音質重視なので、これを初期設定にしています。逆に整っていない条件では音飛びが発生するのでMid にする必要があります。Mid-highの半分がMid、その半分がMid-Low、その半分がLow、そしてその半分がLowestですから世間標準の16分の1という狭さに相当しているものと推察しています。
 そして、ES9018はI2SとDSD入力時はSPDIF入力時の64分の1の狭さになります。I2SとDSD 仕様はMid設定で出荷していますが、I2SとDSD動作でロック外れ(音飛び)の経験もありませんし、外れたという報告もありません。つまりSPDIFのLowest の8分の1の狭さであっても非常に安定しているので、I2Sはやはりすばらしい伝送方式だといえます。逆に言えば44.1kHzでの動作を前提にしていたSPDIFの限界が見えてきているのかも知れません。つい最近も再確認したことがあります。I2SのMidは、PCからの24bit/192kHzも安定に動きます。そして8分の1の狭さのせいか、やはり、音質はSPDIFのLowestを確かに凌ぐものがあります。この実現方法はHiFace Evoを改造し、I2S出力をHDMI経由でCAPRICEへ入れる方法ですが、安定性とさらなる高音質の両方を手に入れる最短の方法かも知れません。

 さて当初はオーディオマニアにご購入頂いていたので、恐らく環境が整っていたのではないかと思いますが、それでも10%位はSPDIFのLowestで44.1kHzがロック外れを起こす感じでした。前にも書きましたが最近はロック外れ増えてきています。恐らくPCオーディオ(発展中の技術)のユーザーが増え、スイッチングノイズが増えてきたことと関係があるかも知れないということは以前に書きましたが、ロック外れそのもの原理は明確に分かっています。ES9018は内部で仮想のPLLがデジタル的に動いています。トランスポートのクロック周波数とES9018の内部クロックの相対的な揺れがPLLのバンド幅の設定範囲を超えると再計算し、そのときにミュートするので音が途切れます。それ以外では電源や信号ケーブルに雑音が混入すると、これがジッターに化けて加わるので揺れが増大します。
 これも最近のことですがXMOSの評価用基板は当方の整えた環境でもLowestで外れ、Lowでも外れ、Midでようやく安定しました(XMOSそのものが悪いという意味ではありません)。hiFace Evoに入れ替えるとLowestで全く安定しましたから、どんな努力をしてもLowestで安定しないトランスポートは確かに存在します。光でなら24bit/192kHzがLowestで安定するけど、同軸では24bit/192kHが安定しないという報告もありましたので、同軸の方が電気的ノイズの影響を受け易い可能性はあります。フェライトコアを信号線や電源線に挟んだら安定したという報告も有りましたし、電源にノイズフィルター付きタップを使ったら安定したという報告もあります。
 これも最近のことですが、クロック交換したPD-F25Aは非常に安定しているのですが、ある個体は安定しません。そこでよくよく見ると、外すべき水晶近くの約15pFのコンデンサーが付いたままでした(私の作業ではありませんし、これ1台だけです)。そのため、波形の立ち上がりや立下りがいくらか斜めになるので、ノイズがジッターに化け易くなっていたのです。この現象は技術者なら、すぐに理解できると思います。ちなみにES9018のLowest以外ではコンデンサーをつけたままでもほぼ問題は起きないので、この取り外しを省略しているクロック交換業者様もいらっしゃるかも知れません。PCオーディオの場合は再生ソフトでロックの安定性が異なるという報告も有りましたし、4週間のエージングのみでCAPRICEがLowestで安定したと言う報告も有ります。
 CAPRICEは工業製品ですからエージングに時間が掛かる固体があるかも知れませんので、なかなか安定しない場合は先ずはご連絡下さい。使用トランスポート、接続方法、サンプリングレート、再生ソフト、ご購入時期、通電時間などをご連絡頂き、その後にお送りください。当方の最も整えた環境で24bit/96kHzがLowestでロックするかをテストし、合格証をお付けします。24bit/192kHzの Lowestは安定だったり不安定だったりとかなり微妙なので、動作保障は出来ません。Lowでもまれに外れるので24bit/192kHzの動作保証はMidになります。クロック交換したSDTrans192のRev2をフィデリックス製ACアダプタで動作させ、ヘッドフォン試聴という最もシンプルな環境です。開梱しやすい梱包をして、元払いでお送り下さい。返送は開梱しやすい梱包をしての着払いとさせて頂きますので、宜しくお願い致します。
 なお、PCからUSB経由でハイレゾ音源を高音質かつ安定に鳴らすことへの対応としまして、hiFace Evoの改造と9V電源は、前向きに検討を始めているところです。

 補足1 ジッターを少なくするには発振用アンプのSNを稼ぐ必要性から、大きな入力電圧を加えると効果的です。すると水晶にパワーが入って温度が上がるので温度ドリフトが生じ、電源を入れてから安定するまでに10分ほど時間が掛かたりします。その代わり安定してしまえばジッターの少ない高音質が得られる可能性が高まります。しかし水晶屋さんはなるべく低電力での駆動を推奨しています。その理由は温度ドリフトを嫌っているのと、水晶サイズを小さくしようとしているからに他なりません。ですから、そういうデバイスを使って設計されたトランスポートは、もしかするとジッターが多くなってしまい、Lowestでは安定し難いかも知れません。
 補足2 水晶の音質テストは結構難しいです。第1にエージングによってかなり変化します。第2にジッターの少ない物は大人しく聴こえがちなので、装置との相性によっては、僅かにジッターのある方が輝かしく元気に聴こえたりすることもあるので注意が必要です。聴感上の帯域バランスはなるべく聴かないようにして、音の質そのものに注意をする必要があるかも知れません。

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