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バランス伝送とインピーダンスバランス伝送の話 中川 伸

 お知らせ! 5.6MHzのDSDファイルの音質がご好評につき、オーロラサウンドの唐木氏演奏のヴィラ・ロボスのプレリュードで5.6MHzオリジナルDFFファイル2もアップいたしました。これはヴァイオリンとギターのプログラ中のギターソロ部分なのでヘッドルームは多い目になっています。KORGのMR-1000のオリジナルDSDデータから曲の部分だけを切り取ったものです。(2013年9月23日)

 民生用のオーディオ機器は元来アンバランス伝送でした。しかし、業務用機器では調光器内のトライアックなどから出るノイズ混入を防ぐため、早くからバランス伝送が使われていました。因みにXLRコネクタは2番ホット、3番コールド、1番グランドです。1984年頃から民生機器でもバランス伝送が使われるようになり、初期の回路構成は後で説明しますが、図2に近いものであったと想像いたします。ただし、この時、標準とは逆の3番ホットも多く出現しましたが、現在では本来の2番ホットが使えるように多くが戻っているようです。

 まずは図1のトランスフォーマーカップリングのファントムパワードをご覧になってください。Vpの電源は抵抗を通じてトランスのセンタータップから供給します。マイクカプセル側のアンプはセンタータップから電源供給してマイクアンプを働かす回路方式です。新たな電源線を使うことなく電源を供給できるのでファントムパワード、つまり幽霊供電と呼びました。ノイマン社の提案で始まったのですが、現在は12V、24V、48Vの3種類の規格があります。この動作原理をそのまま置き換えたのが前述したアンプの回路方式で、ほぼ図2 のような回路構成になっていたであろうと思います。アンバランス伝送に比べて複雑で大げさな回路になるので、必ずしも音が良くなる訳ではないのですが、一般の人にはXLRが頼もしく見え、バランスという言葉も手伝ってか良さそうに思われました。後に、デジタル機器では2個のDACを正確に逆位相で働かせることで、XLRの真価が生かせるようになったのは喜ばしいことです。
 図3は図1と異なりトランスレスにしたキャパシターカップリングのファントムパワードの回路図です。送り側も受け側もカップリング方式には互換性があります。この例で重要なことはXLRの3番ピンからの信号供給には反転シグナルを必ずしも送っていなくて、無信号だということです。そもそもバランス伝送は途中で妨害を受けた場合にそれをキャンセルする仕組みになっていれば良いので、そのためにはインピーダンスを同じにして、妨害の受けやすさを同じにすれば、受け側で引き算をすることによってキャンセルをするという考えです。その原理からすれば必ずしも信号そのものはバランスで送る必要は無いという訳です。事実、信号が2番側のみというトランスレスのマイクロフォンは今日ではたくさんの種類があり、いずれも問題なく動作しております。この方式は特に名前が付いているようでもなさそうなので、便宜上インピーダンスバランス伝送と呼ぶことに致します。

 では、これをプリアンプとパワーアンプ間に当てはめれば図4の回路でも良いということになります。図2に比べると、送り出しの反転アンプと受け側のバッファーアンプが省略され、ずいぶん簡単になります。ところで、この受け側の回路動作についてはあまり正しく理解されていません。2番ピンの入力インピーダンスは10kΩになり、3番ピンの入力インピーダンスは5kΩになるので、入力インピーダンスにアンバランスがあるかのように思われがちです。そこで、R11とR12を10kΩにしたり、あるいは図2の様にバッファーアンプを入れることでインスツールメンツアンプ構成にする技術者が居るかも知れません。しかし、2 番ピンと3番ピンに同じ信号を入れると、差動信号成分は0になるのでX7の出力には信号として出てきません。つまりR 12の右側はグランドに落ちているのと同じ動作になります。ですからR9とR11へ流れる電流は同じになります。つまりコモンモード信号における入力インピーダンスはどちらも10kΩになるので、この回路は妨害となるコモンモードノイズに対しては実は同じ入力インピーダンスで動き、問題のない回路であるといえます。実際のマイクロフォンは信号レベルが低いので、受け側の前段でゲインを稼ぐこともありますが、その場合の回路は図5のようにX9とX10が追加される形になります。

 図6はAKGのC414XLSというマイクの改造用に、私が設計したマイクアンプの回路構成です。単一指向性のみ、ローカット切り替えなし、感度切り替えなしというシンプルな構成にしたことも手伝ってか、非常に良い音になって満足しています。良いマイクロフォンというのは遠くの音でも鮮明に収録できます。え!どうして?と思うかも知れませんが、実際にそうなります。元々C414XLSの暗雑音は6dBと少ないのですが、若干改善していますので、5dB付近だろうと思います。この値はRODEのNT1-Aと並び世界最高レベルです。そのためにオールJFETやクラスAやDCアンプ構成にしていますが、低音を伸ばしすぎると空調の揺らぎまでをも拾ってしまい、不安定になります。そこで、生録を繰り返し、ぎりぎりのところでローカットをしています。電源のデカップリングコンデンサは試聴を繰り返しながら検討すると、かなり大きめにする必要がありました。バイアス回路はサイン波で発振させないと高域に余計な輝きが付加されます。これで録音したTorna Srrentorobosをアップしておりますので、ダウンロードしてCD-Rに焼いて聴いてみてください。遠くの音や細かい音の表情が鮮明に聴き取れることと思います。なお、この基板を使って他に改造したマイクはC214、NT1-Aですが、お気に入りはC414です。

 「Torna Srrento」の説明ですが、西方音楽館が主催(中新井紀子)で2012年11月17日に栃木県にあるグリムの館で行われたコンサートです。テノールはコンサート歌手やオペラ歌手として活躍していて、リリックでとってもいい声の谷口洋介氏です。オルガンは塚谷水無子氏でキングレコードから何枚かのCDをリリースするなど活躍していらっしゃいます。Youtubeで検索しても出てくると思いますが、ちょっとはみ出た雰囲気が聴いていて面白いです。オカリナは西方音楽館講師の山村多恵子氏で、丁寧な歌い回しが持ち味です。オルガンよりもピッチが少し低いことだけが心残りですが、これを合わせるにはオルガン側を下げるという大掛かりなことになるので、まあ仕方がないでしょう。
 なおこれの5.6MHzオリジナルDFFファイル5.6MHzオリジナルDFFファイル2もアップしております。CAPRICEのDSDタイプで、普通の2.8MHzや2Lの5.6MHzでは安定していても、この生録5.6MHzでは不安定になる現象が生じましたら、ご連絡をお願い致します。CAPRICEのROM交換を致します。この交換はDSDタイプのみでPCMタイプには不要です。(2013年9月4日)

    
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