消磁の話と消磁グッズDEGAUSS(デガウス)について | 中川 伸 |
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私自身は空芯MCやヘッドアンプやMC用イコライザーを主に使っているのですが、鉄心MCやMCトランスやMM好きのために作ってみました。
使った人からは大好評で、売れ行きにも驚いています。ありがたいことにリピート生産も必要な勢いです。以下はご購入者様からのコメントの一例で原文のままです。
頂いたコメント例 先日購入のDEGAUSSの効果は予想以上で、ショートによるものと比ると、格段に雑味が減少します。またショートでは短期間ですぐ元の状態に戻るのですが、それも今のところ全然なく、助かります。手持ちのMCステップアップトランスでも消磁を試しましたが、感覚としてLIRICOの7割程度まで微小レベルの解像度が上がるようで、これも素晴らしい効果がありました。ただ「トランスの音」というのがあることを、LIRICOを使って解りました。ストレートでバランスよくかつノイズなしに増幅してくれるLIRICOは本当に有り難いです。(2019年10月31日追加分)
オープンリールデッキやカセットデッキにはヘッド・デマグネタイザーという消磁グッズがありました。ヘッドが磁化されると音質に悪影響を与えるだけではなく、テープにヒスノイズを加える恐れすらあるからです。カセットデッキ用はカセットテープと同形状になっています。アナログレコード用では、スペックスからMMカートリッジの針を外して本体の消磁をするグッズMD-22が発売されていました。いずれも外部から交流磁界を加え、強から弱へ減衰させる原理です。
私がスタックスに在籍していた1973年の頃ですが、サンケンマイクロホンの当時の専務(故竹内時夫氏)はよくスタックスに訪れてくださり、当時のスタックス社長(故林直武氏)と私の3人でオーディオ談義をする機会に何度も恵まれました。その時、私はMC用のステップアップでトランスはあまり好きではないと言うと、竹内氏は「トランスはきちっと消磁すれば中川さんが思うほどには悪くないですよ。マイクには音質の個体差が生じてしまい、その原因を調べたら、出力トランスの残留磁気の影響だと判った。それ以後はきちっと消磁をするようにしたら全数がスカッと抜ける音になった。」との事でした。
また、フィデリックスでLB-4を発売し、1年程経った1981年頃のことですが、このアンプを気に入って頂いた熱心な2軒のオーディオ店の店主が共にDL-103のカートリッジとAU-301のトランスを好んで使っていました。私は空芯MCカートリッジの方が好きなのですが、何度かDL-103にはチャレンジしました。でも、私のところではそこまではよく聴こえなかったことと、サンケンマイクロホンの話を思い出したのでDL-103の消磁を考えました。
しかし、外部から磁界を加えればマグネットも消磁されてしまいます。そこでコイルへ電流を流すことでコアのみの消磁を思いついたのですが、そんな方法できちっと消磁ができるのか?あるいはカートリッジへのダメージは無いのか?といった疑問がありました。
コイルに交流電流を流して消磁する原理を説明するには飽和磁束密度、残留磁束密度、閉磁路、開磁路、磁気抵抗、透磁率、アンペアターンといった専門用語の説明から始めなくてはならないので、深く知りたい方は検索してみてください。DL-103タイプのMCカートリッジは開磁路とみなせるので、飽和磁束密度に達するまで駆動するのは難しそうです。でも残留磁束密度を越える程度なら可能だし、それでも消磁効果は得られそうに思えました。コアに使われている材料は、残留磁束密度の大きいマグネット用ではなく、小さいトランス用だからです。そこで実際にやってみました。
常用している歪率計サウンドテクノロジー社の1700Aの発振器出力は都合が良いことに2kΩの連続ボリュームになっていて、これを最小、最大、最小と動かしながらカートリッジに加えてみました。すると音は確実に改善されたので、ほぼ消磁の効果だと思います。コアは強い磁界中に配置されているので、いつの間にか磁化されてしまったようです。また、テスターで導通を測ったりしたこともあるのでこれによって磁化された可能性もあります。コイルに電力を加えるという乱暴な発想は常識人なら考えないので、その時までは存在しなかったのでしょうが、ここで得られた効果は周りのオーディオ仲間達に話しました。その半年とか1年後かは忘れましたが並木宝石からDM-100、ラックスマンからはXA-1という電力を加えるタイプの消磁器が発売されました。最近では愛和やORBも作っているようで、海外には何機種かがあります。また、アンプの中に消磁機能を持たせた機種も有ります。
電力を加えることで壊れないかとの心配ですが、これは時間とパワーによります。単3や単4の乾電池では感電しませんが、雷では死に至ります。電子部品の破壊は基本的に、熱か電圧で壊れます。MOSFETは過電圧で壊れる可能性がありますが、基盤に組み込んでしまえば他の部品と接続されるので、非常に壊れにくくなります。熱的には印加時間が短いので問題は無いだろうと判断し、その後も消磁を続けていますが、現に音の改善効果は得られながらも問題は生じていません。ですから正しく使えば壊す可能性はほぼ無いと言えるでしょう。
さて、ここで作ったDEGAUSS(デガウス)というグッズは006Pの電池を使った消磁器です。対象は鉄芯MC型カードリッジ、MM型カートリッジ、MC用ステップアップトランスで、これらの持てる能力を余すことなく発揮させることでしょう。使い方は、電源を入れてパイロットランプが点灯することを確認してから、ボリュームを絞ってRCA端子に対応物を接続します。ボリュームを最大にしてから絞り切りますが、1秒で上げ、1秒で下げ、トータル2秒程度の1回で十分です。どの程度の頻度で行うかはデータがありませんが、半年に1度位を目安にしてみてください。私が1981年頃に行った原点ともいえるローテク方法です。それによって、ほぼ消磁が行えるという訳です。ノウハウは出力インピーダンスと出力電圧を適切に選ぶことで用途が広がります。ツマミを回すスピードに合った周波数を選び、回し易いツマミ形状と言えるでしょうか?
カートリッジをショートしてレコード演奏すれば消磁されるという考えもありますが、出力電圧をインピーダンスで割った電流値は0.1mA付近なので、磁化されている量がごく微量な場合には効果があるといえるでしょう。このDEGAUSSはその100倍程度を流すので、出力にトランスを搭載したマイクロフォンにも効果がありそうです。ファンタム電源は磁化する機会も多そうです。その消磁はXLRからRCAへの変換が必要で、XLR入力のMCステップアップトランスも同様です。2番と3番ピンだけを使うのですが、写真のようにICクリップとRCAへの変換する付属品を使って工夫をすれば可能です。このクリップを使えばカートリッジ単体、あるいはヘッドシェルに取り付けた状態でも対応可能です。
空芯MCには使っても意味が無いので使わないでください。針交換可能なMM型やMI型は必ず針を外してご使用ください。針が外れない場合は使用しないでください。MCトランスは1次側へ接続し、2次側は完全なオープンで行ってください。電池は006P形状なら何でも使え、電源表示が暗くなれば電池交換です。通常はマンガンタイプで十分です。
私の周りでも、鉄心MCや、MCトランスの方が力感があるということで好む方々はいらっしゃいます。こういった製品の中にはとても高価なものもありますが、それらがもしも磁化されていることによって本領が発揮されていないとすれば、何とも勿体ないことなので、このDEGAUSSは必需品といえるでしょう。ロット200台と多めの発注によって16,500円(税別)に抑えることができました。ICクリップ4色は標準付属品、XLRはオプションでオスメスが各2個ずつで\2,500円(税別)です。でも、このロットだけで終わってしまう可能性もあるので、関心を持たれましたなら当社か販売店様へ早めの予約を宜しくお願い致します。(2019年6月18日)
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