超低歪OPアンプの間接的な歪率の測定方法 | 中川 伸 |
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最近の超低歪OPアンプの中には0.0000*%という表示のものが時々見うけられます。こんな値は普通の測定器ではとても測定できません。そこでこの測定方法のご紹介です。
アンプに現れるノイズや歪はNFBを掛けることによって少なくなります。これは1/(1+Aβ)になることはよく知られています。つまり、NFB量に応じて少なくなります。OPアンプはゲインが高く、NFBをたくさん掛けるのでノイズや歪はものすごく少なくなってしまいます。ですから普通に計るには困難な場合があります。そこで、このNFB量を少なくすることで、わざとノイズや歪を多くすることにより、計り易くしてから計るというのが基本原理です。計ってから測定値を換算することで、少ないものとみなして表示します。ただし、他の要素が入らなくて、上手く換算できることが条件になります。
さて実際に測定をしてみました。歪率計は私が使い慣れているサウンドテクノロジー社の1700Bです。これは0.01%フルスケールなので、0.001%くらいまでは直接計れます。これで測定ができなければ、より高性能なパナソニック社のVP7722AやHP社の8903Bを使おうかと思ったのですが、意外にもすんなりと計ることができました。ですから、ちょっと優れた測定器ならたぶん上手く測れると思います。
さて、図1は100%帰還をかけたゲイン1の回路なので、直接に歪を測定することはかなり困難です。そこで図2の回路にします。信号に対するゲインは1と変わりませんが、NFB量は1kΩと10Ωで分圧されてからOPアンプの入力に入るため、約40dB少なくなります。ですからノイズと歪が約40dB増える計算になります(このことをノイズ・ゲインが101倍になったといいます)。
この方法で、今作っているオーディオ用に最適なOPアンプを計ってみました。そうしたら0.008%で、これは1700Bで十分に計れる量です。しかもその歪波形は素直な3次高調波に少しのランダムノイズが乗った波形なので、ほぼ正しい値であると判断できます。測定条件は1kHz、3Vrms、2kΩ負荷、±22Vでした。そこで換算をすると0.00008%になります。この周波数や条件では問題なく換算できることは理屈からも実験からも経験からも特に疑問はありません。また、OPアンプメーカーでも採用していることからしても、これは信頼性のある測定方法だといえます。パワーアンプのようなゲインを持った場合でも、図3のような原理を使って間違わない換算さえすれば、上手く超低歪が測定できると思います。
だれが考えついたのかは分かりませんが、なるほどと深く感心させられました。ところでLF357というOPアンプはゲイン5倍以上で動作させなくてはなりませんが、そのデーターシートには図4や図5の回路が古くから載っていました。これは発振に関係する高い周波数における帰還量を少なくして動作を安定化させるテクニックなので、共通するテクニックではあります。
電源電圧だけを±15Vにし、同じ条件にて手元にあったOPアンプの歪を測って見ましたら、実は個体差も結構ありことが分かりました。また、音は歪だけで決まる訳ではなく、他にいくつも重要な要素があるものです。したがって、このデーターだけで「優れているものは音が良い!」とは決して思わないでください。しかし、何らかの参考にはなるかと思い、以下にデータを載せておきます。(2010年1月30日)