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アナログ約60dB、デジタル90dB以上というDレンジは比較不可 中川 伸

CDは16ビットなので、2の16乗の65536ですが、分かり易いよう、床を0とすると、天井は1少ない65535で、この間が最大振幅になります。最小振幅は0と1の間の1段(1LSBといいます)ということになるので、両者の値をサイン波の山と谷に当てはめ、単純計算をすると、20log65535で96.33dBの振幅比ということになります。
これを根拠としてCDのダイナミックレンジ(以下Dレンジ)は当初90dB以上とされました。一方、アナログはSN比という概念から無信号時のノイズレベルを最小レベルとしていました。しかし、デジタルでは0.5LSB以下の小さなノイズは四捨五入され、無くなってしまうので、アナログのように無信号時のSN比を定義できません。そこで下図のように単純増加の波形を想定すると、段々畑のように段差となって現れます。これは正しい波形にノコギリ波が加わったとみなし、ノコギリ波の実効値を計算すると、波形は同じ振幅のサイン波よりも痩せているので、1.76dB低くなります。
これがデジタル特有の量子化ノイズですが、すると最大サイン波と量子化ノイズとのレベル差は、98.09dBになります。こうしてCDのダイナミックレンジは98.09dBが理論値ということになり、アナログの60dBに比較して圧倒的に優れているとしました。なお、近似計算では1ビットを6dB、量子化ノイズは2dB低いとみなし、(ビット数×6)+2で98dBとされています。
でもちょっと待ってください。アナログは基準レベルとノイズレベルの比を60dBとしていますが、基準レベルの上にはまだ15dBほどが入りますから、ここでデジタルは基準レベルを変更し、15dBの下駄を履かせたといえます。ですからまずはアナログにも15dBを加えましょう。
次はローレベルの話ですが、戦時中の電波状況が悪い条件にて、ザーノイズより10dB低い音声であっても通信可能とされています。声の周波数成分である音声フォルマントを分析する必要性から、ザーノイズの下20dBほど低い周波数成分までを聴き分けていることになります。その証拠として、トン・ツーのモールス信号ならザーノイズの下20dBまでは通信可能とされています。風や波や雨というノイズ環境で、ランダムなものは平均化して小さするという人間が備えた聴覚のすごさです。我々は走る電車や自動車の騒音中でも普通に会話ができるのです。
ではCDに1LSBの信号を入れたとすると、サイン波、方形波、三角波、ノコギリ波のいずれもが同じ方形波になってしまいます。波形情報は失われ、歪も格段に増えてしまい、もしも音声ならフォルマントは別物になってしまうので、通話は不可能でしょう。量子化ノイズの下20dBのモールス信号を入れたとしてもカットされてしまい、やはり通信不能です。モールス信号を再現するには最低限1LSBの振幅が必要と考えるのが妥当です。平均化すると小さくなるアナログのランダムノイズと平均化しても小さくならないデジタルの量子化ノイズは聴覚への影響度が全く異なります。アナログはノイズに埋もれても元の信号は変質しませんが、デジタルに小さい信号を入れると別物に変質するのです。以上からするとするとアナログはノイズの下20dBまで、デジタルは1LSBまでが現実的な有効利用範囲といえます。以上から、20+1.76dBも加えます。
さて、CDの理論Dレンジが98dBだとしても、実際の製品ではノイズの測定をしなくてはなりません。そのまま測定をすると、サンプリング周波数の両サイドなどに折り返しノイズが出てきて、理論値のような数字はとても出てきません。これではまずいということで、デジタル機器を測定する場合は、聴感補正のAカーブに加え、20kHz以上をシャープにカットする新たなフィルターを入れるよう測定方法に変更を加えました。アナログにも同様のAカーブに加え、この20kHz以上をカットする新たなフィルターを入れると機器のノイズ成分によりますが2〜3dBノイズレベルは下がるので、2.5dBを加えます。
次は現実的な事情ですが、アナログはレベルオーバーでクリップをした場合に目立たないソフトなクリップをします。しかし、デジタルは目立つハードなクリップになります。そこで、録音技師によっては、アナログは3dBほどオーバーに録音して、瞬間を犠牲にしてでもDレンジを稼ぎ、デジタルは安全性を取って6dBほどアンダーに録音することは広く行われています。その差は約9dBです。これらを合計するとアナログは60+15+20+2.5+1.76+9=108.26dBでデジタルの理論値98dBを上回ります。割り引く必要はあるかも知れませんが根強いアナログファンが存在する理由がここにあります。高音質のCDやSACD作成に、アナログマスターにこだわったレコード会社がいくつかあるのも同じ理由からです。
実は、このことを書くにあたって、念のため何人かのオーディオ技術者に事実関係を確認したら、現実にデジタル機器を設計したり、測定をしている人たちは普通に知っていることだというコメントでした。ではなぜ発表しないのかをたずねたら、業界としては得することが無いからとの回答でした。
ではCDは駄目なのかといえば、そうではなく、いろんな改善技術が出てきています。次回はなぜこのようなテーマを取り上げたかの理由や、このようなDレンジ表示に至った事情や、CDのDレンジの改善技術について述べたいと思います。2009年5月20日

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