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オーディオにおけるインピーダンス 中川 伸

 オーディオではインピーダンスという語句が頻繁に出てきますが、一言でいえば交流抵抗のことです。単位はオームで抵抗と同じです。純粋な抵抗なら、直流であっても周波数が変わろうとも値は変化しませんが、コンデンサ成分やインダクタ成分が含まれると、周波数が変われば値が変化してしまいます。このような場合はインピーダンスで表示します。ということは、抵抗はインピーダンスに含まれる関係にあります。
 さて、インピーダンスをマッチングさせる必要がある場合は、最大電力を伝達させたい場合と、反射を防がなくてはならない場合の2つです。オーディオでは増幅という手段が取れるので、インピーダンスをマッチングさせることで最大電力を得る必要は殆どありません。一方、定在波を無くすべく、反射を防がなくてはならない場合は、デジタル伝送において高速パルスを伝送する場合と、FMやTVのアンテナや、これらの高周波増幅回路では最適な特性を得るためにインピーダンスのマッチングが必要です。一般には4分の1波長以下なら反射は考えなくてもよいというのが常識です。ということは伝送距離が10mなら40mの波長、つまり7.5MHz以下の周波数なら無視してもよいということになります。ですからオーディオの帯域ではそもそもインピーダンスマッチングの必要は無く、合わせてもいないのが現実ですが、そのことを順番に検証してゆきましょう。
 もしも、スピーカーのインピーダンスが8オームで、パワーアンプとインピーダンスをマッチングさせるなら、アンプの出力インピーダンスも8オームなので、ダンピングファクターは1での動作ということになります。スピーカーは定電圧駆動を想定して設計されていて、この条件における性能が表示されています。しかし、現実にはダンピングファクターは約3以上で100付近までに留まっていますが、こういった定電圧駆動という暗黙のオーディオ基準を無視した定電流駆動といって、0.1以下の非常に小さいダンピングファクターでの駆動をする場合すらあります。いずれにしてもインピーダンスを合わせてはいません。もしも、スピーカーケーブルの特性インピーダンスも8オームにということになれば1mあたりのキャパシタンスは約600pFのケーブルにしなくてはなりません。
 ちなみに定電圧駆動か定電流駆動かの論争は1970年頃にあって、ラジオ技術誌にて実験し、定電圧駆動の方が歪は少ないという結果でした。確かに駆動力そのものは電流に比例するのですが、現実には磁束の均一性や、サスペンションの弾性が直線ではなく、定電圧駆動の方がこれらのひずみを打ち消す方向に働くからです。トランジェント特性はダンピングファクターが高い定電圧駆動の方が良いのは当然ですが、音の好みは人それぞれ自由ですし、好きな音をアピールする説を主張するのもまた自由です。
 真空管アンプの場合で、出力トランスのインピーダンスを選ぶ際はインピーダンスのマッチングではなく、そのインピーダンスの時に最大出力や歪率などのバランスがとりやすい値を選んでいるのが実情です。一般に3極管のインピーダンスはトランスのインピーダンスの数分の1ですし、5極管の出力インピーダンスはトランスのインピーダンスの10倍くらいになっているのが普通です。これに負帰還を掛けることで、ダンピングファクターが3〜10位になっているという訳です。
 さて、プリアンプとパワーアンプ間ではプリアンプの出力インピーダンス数100オームに対し、パワーアンプの入力インピーダンス数10kオームなので、やはりインピーダンスは合っていません。昔、A&Eという会社が数10オームでプリアンプとパワーアンプ間のインピーダンスマッチングを試みた製品がありました。また、逆に電流伝送といって出力インピーダンスが極端に高く、入力インピーダンスが極端に低いという、これまた暗黙の約束を無視した製品もあります。アンプの設計においては、出力インピーダンスや入力インピーダンスの値を異なった設計にすると、回路も動作も変わってしまうので、もしも音が変わったとしても、それは回路や動作が変わったせいなのか、それともインピーダンスの関係が変わったせいなのかは区別がつきません。また、それによって変わったとしても、録音側まで含めれば、全ての接続のインピーダンス関係が統一されていた訳でもありません。私は変則的なことをするよりも、出力インピーダンスはできるだけ低く、入力インピーダンスはできるだけ高くという暗黙の約束に従い、その条件にて最良になるように心がけています。プリアンプの録音出力と録音機の関係なども、殆どは低出力インピーダンスで高入力インピーダンスという関係になっていますし、そうすることで、ひとつのプログラムソースから、並列にいくつもの機器に分配することも出来るからです。
 ではカートリッジとイコライザーアンプの関係はいかがでしょうか?MMカートリッジのインピーダンスは数kオームなのに対し、イコライザーアンプの入力インピーダンスは数10kオームでやはり合っていません。しかも周波数が上がると、カートリッジのインピーダンスは大きく上がり、その値もカートリッジによって変わるので、現実としてインピーダンスはマッチングしていません。ただし、MMカートリッジの多くは47kオームと200pFあたりで標準特性になるように設計しているようです。MCカートリッジの場合はヘッドアンプとトランスがありますが、カートリッジメーカーではヘッドアンプの場合なら数倍以上のインピーダンスで受けることを推奨していますが、ヘッドアンプは帰還のかけ方で、入力インピーダンスを自由に変えられるので、低いものもあります。さて、MCトランスの場合にトランスでインピーダンスマッチングさせるには、MCカートリッジのインピーダンスが3オームとしてイコライザーアンプの入力インピーダンスが47kオームなら、47000÷3の平方根で約125倍の巻き線比で、42dBのゲインならマッチングすることになりますが、こんなハイゲインのトランスは実際にはありません。6dBの損失を見込んだとしても0.3mV出力なら約20mVくらいの大きなトランス出力電圧になってしまいます。つまりもっと巻き数比を少なくし、インピーダンスはマッチングをさせてはいないのが現実です。
 一例としてオルトフォンのトランスでVELTOの場合、昇圧比は30dB(31.6倍)なので、インピーダンス比は2乗の1000倍の関係になります。ですから3オームのカートリッジを接続した場合は、トランスの出力インピーダンスは3kオームに見え、イコライザーアンプの入力インピーダンスの47kオームは、その16倍ほど高いということになります。逆にカートリッジ側から見た場合は、47kオームの1000分の1の47オームという16倍のインピーダンスで受けているように見えます。いずれにせよ、低出力インピーダンス、高入力インピーダンスの関係にしっかりなっていることがわかります。ではトランスに表示されているインピーダンスは何かといえば、トランスが最も望ましい特性や音質を出しやすいカートリッジの推奨インピーダンスと理解すれば良いでしょう。つまり、値を合わせているのではなく、事情に合わせていると言うのが現実です。結論としてオーディオでは出力イーダンスは低く、入力インピーダンスは高くというのが基本であり、実態でもあります。

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