デジタル信号におけるアイソレーションの重要性2 | 中川 伸 |
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スイッチング電源はスイッチングノイズを出しますが、オーディオ機器やPCはCISPR 13という規格によって限度値が規定されています。かなり厳しい規格なので、スイッチング電源屋さんは大変な苦労をし、約6dBほどのマージンが取れたところで、やれやれとなって終わりにします。ですから小さな携帯電話の充電器でも、大きなPC用の電源であっても実は殆ど同じ量を出しているのです。セリニティー電源が一般のスイッチング電源の約3000分の1としている理由です。前にも書きましたがスイッチングノイズは音質に悪影響を与えるので、アイソレートはとても重要です。
さて、Tos-LinkとST-Linkは光アイソレートなので電気の絶縁は完璧です。最近はTos-Linkの性能が上がったことと、価格差から、ST-Linkはあまり使われてはいません。
パルストランスはアイソレートできると思われがちですが、必ずしもそうではありません。送り出しにパルストランスを使っても、実際にはコアキシャルの外側とGNDの間に10000pFあたりを入れたりします。これはノイズ規格から必要になってしまうからです。10000pFは電源トランスの浮遊容量と比べると桁違いに大きいので、パルストランスを入れてアイソレートした意味は殆ど無くなってしまいます。それなら潔く送り出し側は外してしまい、アイソレートは受け側のパルストランスに全て任せるという方が理にかないます。そもそも電源トランスはすでにアイソレートしていますが、その静電容量では不十分だから、1桁は少ない静電容量にしようということでパルストランスを入れた筈でした。ですから、入力のパルストランスの静電容量を等価的にいっそう少なくするためにシールドをしたり、2重シールドにするのはさらに効果的だと思います。というのはシールド線のシールド側だけに電流を流したとしても信号に混ざるからです。
デジタルアイソレーターもなかなかよい方法でしょう。主に磁気結合方式とコンデンサー結合方式があります。磁気結合方式の代表はNVEやAVAGOで、コンデンサー結合方式はTIです。これらを入手したので、まもなく実験を開始するつもりです。
ESS社のES9018というDACはI2S入力で上手く動作をさせると24Bit/352.8kHzや32Bit/192kHzサンプリングの再生ができます。そのファイルはノルウェーにあります。
http://www.2l.no/hires/index.html
からダウンロードしたいファイルをクリックし、ユーザー名にHD、パスワードに2Lと入力すれば無料でダウンロードができます。では、どうしたらこのファイルをI2Sで出力できるの?と思うかもしれませんが、SDカードのWAVデータをI2Sで送る電池式のトランスポートを作った人がいます。http://www.chiaki.cc/Transport/sdtrans192.html
ウエブで検索すると出てくると思いますので欲しい方は連絡してみてください。もしも分からなければフィデリックスへの連絡をお願いいたします。
ES9018は24Bit/192kHzなら割と簡単に再生することができますが、32Bitは少しだけ苦労します。24Bit/352.8kHzはもっと苦労しますが、しかし、これを優れた音質で再生できるようにすると、他のフォーマットの音質までがクォリティーアップします。そんな訳で、CAPRICEはこういったI2S信号とDSD信号が入れられる端子をボード上に設けました。なお、ES9018はI2SとDSDを自動判別する筈です。さらに、このような信号をアイソレートしながら受け渡す方法も考えました。ただし、あくまでも遊び心によるチャレンジであって、100%の動作を保証するものではありません。
まずはケーブルですが、I2S信号やDSD信号に使われている種類は、同軸、1394、VGA、LAN、HDMIなどです。電気的にはいずれも十二分な性能を持っているでしょう。
以下はあくまでも使い勝手ですが、同軸はサイズが大きく、3本の線を間違いなくユーザーが接続できるかといった心配もあります。VGAは古い規格でやや大きいです。1394はだんだん少なくなりそうです。LANはオーディオマニアからすれば立派には見えませんが、とても合理的によく考えられています。私はこれにかなり惹かれていたのですが、最近、PoEという電力伝送の規格が追加されました。すると誤って未対応の機器を接続すると破損しかねません。
以上の理由から、私はHDMI(High-Definition Multimedia Interface)ケーブルを使うことにしました。こういう場合は、よき先輩に見習えでということで、最初に使ったPS AUDIOにコンタクトを取りました。すると、回路図まで添付して、快くピン番号を教えてくれました。PS AUDIOは「独占するつもりは無いので回路図を公開しても構わない。HDMIによるI2S伝送がハイエンドオーディオにおける標準規格に成り得るなら、とても喜ばしい。できれば”PS AUDIOに準拠”といった記載をして使って欲しい」とのことでした。
そのピン番号は、1p=シリアルデータ−、2p=シリアルデータシールド、3p=シリアルデータ+、4p=ビットクロック+、5p=ビットクロックシールド、6p=ビットクロック−、7p=L/R−、8p=L/Rシールド、9p=L/R+、10p=マスタークロック+、11p=マスタークロックシールド、12p=マスタークロック−、15p=SCL、16p=SDA、17p=GND、19p=ホットプラグ検出でGNDに接続。以上がPS AUDIOの使用方法です。
しかし、私はトランスポートからDAC側に電源供給したいので、18pは本来、5Vの電源ですが、3.3V〜5Vと電圧範囲を広げ、ポジスタのような電流制限素子を通じて使用することを提案したいです。また、私は10,11,12番を使う当ては無いのですが、もしも使う場合はDACからトランスポートに向かって何らかの信号を送り出せるようにと、逆向きのデバイスを入手しました。しかし、先人が順方向で使ったので、この3本ピンはもう逆向きには使えません。そのため、もしも使う場合は他のピンにします。という訳で標準のピン番号が決まったのでCAPRICEにオプションでHDMIによるI2Sのアイソレートした端子が付けられるかも知れません。
信号の流れはI2S>DS90LV047A>HDMIケーブル>DS90LV048A>IL717>I2Sです。あと、5Vを加えた場合の保護用として3.3Vの低飽和3端子レギュレータと100Ωのターミネーターといくつかのパスコンが必要です。また、セカンドソースのICも何種類かあって、以下から検索できますが、ほぼピンコンパチブルです。型番はSN65LVDS047、SN65LVDS048A、ISO-7241、HCPL-092Jです。HDMIコネクタは、TCX3219(ホシデン)、F77B-019-210-AGGAA-M(ミツミ)、CSS5019-0701F(SMK )などが殆ど同じに使えます。伝送の実験が上手く行ったならこのページで回路を掲載いたしますが、技術のある方なら、ここまでの情報でもう十分に設計ができるかと思います。
なお2重シールド(0.5pF)で超高速(115MHz)のパルストランス(SC947-02)は80個ほど余分に買うことにしましたので、感心のある方には送料込みで1個2,100円にて配布させていただきます。波形を鈍らせることなく、確実なアイソレートをする最高のパルストランスだと思います。完売の際はご容赦願います。私はDACに入る全ての入力間同士であってもアイソレートされるのが望ましいと思っております。なお、以下のサイトで下位グレードのパルストランスが購入できますが、それでもより高価です。
http://www.partsconnexion.com/digital_scicon.html
追加です。パルストランスの1次側は1番ピンと4番ピンに入力信号を入れますが、極性は関係ありませんのでなるべく短くなる方で構いません。2次側は5、6、7番ピンをショートしてこれをグランド側、8番ピンを信号側として使用します。なお。このトランスは110Ωと75Ωの双方に使えます。
(2010年4月3日)