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超低ジッター水晶発振器(クロック)の製作2 中川 伸

 クロックによる音質差は周波数精度ではなく、ジッターであり、その原因は発振器に使われるアンプのf分の1ノイズが主であることを前回に書きました。そのため、製作したものは原理からすれば非常に優れている筈ですが、果たして実際にはどれほど良くなるのか、あるいは世間で高精度と称しているクロックと比較してどの程度なのかを知りたくて、相島技研さんに試してもらいました。実は、私と相島さんはソニー時代に背中合わせでオーディオ機器の設計をしていた間柄です。その比較結果は相島技研さんのHPで、「きょうのニュースの8月24日のブログ」にも書かれているように、ソニーのディスクマンに組み込んだら「100万円のCDプレーヤーにも負けない」とまで書かれています。また、愛用のCDP-X5000を45MHzのクロックに交換したら、とても具合が良かったので、そのまま真空管オーディオフェアのデモに使われました。
 http://www5b.biglobe.ne.jp/~a-ag/
 私も遅ればせながらパイオニアのPD-F25Aに組み込んでみました。少しは良くなるとは思っていたのですが、想像以上の驚くべき効果がありました。しかし、自分だけで驚いていてもしょうがないので、数台に組み込み、数人のオーディオ仲間に送ってみました。そうしたら全員がもう返したくないので、このまま購入するということになりました。ある友人は20万円くらいのものは簡単に負かすと言い、いろんな場所で使うので3台を購入してくれました(後に彼の友人用に2台の追加購入がありました)。またある友人は有名な海外製の高価なものを使っていたのですが、もうそれは要らないとまで言っていました。でもそういった他のCDプレーヤーをこのクロックに交換すれば、それがまたどれほど良くなるのか、私には分からない状態ですが、クロック交換した方のブログにも良かったことが色々と書かれています。
http://ariajp.cocolog-nifty.com/free_discussion/2009/09/fidelix-443a.html
http://web3.incl.ne.jp/tetsu/c8dekirukana/ljclck.html
http://blogs.yahoo.co.jp/william_kapell/40584719.html
http://ameblo.jp/kotapipakesuie/day-20100824.html
 では、どう良くなるのかと言えば先ずは歪み感が減って、澄んだ音になるので、音場の見通しが良くなります。そのため空間が広くなったように感じ、細やかなニュアンスもよく分かるようになります。そして長く聴いても疲れない音になります。友人たちのコメントも全く同じです。時間揺らぎの例は、扇風機の前で「あー」と言うと「グワー」みたいに濁った感じになります。クロックのジッターが減るのはこの逆になるとイメージすれば分かり易いでしょう。なんとも不思議なのはトランスポート側のクロックを交換しても音が良くなるらしいということです。
 さて、そのPD-F25Aは電源の整流ダイオードもショットキーバリアダイオード(以下SBD)に交換しました。最近ではいろんなメーカーがSBD採用とか宣伝するようになってきましたが、フィデリックスから1980年に発売したLB-4というパワーアンプが、オーディオ機器の電源整流に世界で初めてSBDを採用した製品でしょう。当時のSBDは耐圧が30Vくらいで、選別をするとようやく40Vくらいになりました。LB-4はBTLのため電源電圧が±15Vだったからこそ40V品が使えたという事情もあります。現在のSBD耐圧は250Vくらいにまで上がっていますが、フィデリックスの見識は30年ほど進んでいたことをぜひとも認めてもらいたいです。ですから、PD-F25AはクロックとSBDの相乗効果でしょう。
 さて、このクロックは一般の方々のみならずクロック交換を業としている方々からもコンタクトがありましたので、かなりの注文数になりそうです。ただし、周波数が68MHzまでの対応や、電源電圧が5Vだけでなく3.3Vでの動作とかの要求がありました。そこで設計変更したモデルの45MHz波形が冒頭のオシロスコープ写真で、これは5nS/Divと1V/Divです。立ち上がり時間は2nSですから、クロック波形としては世界最高水準の高速さです。次のアナログオシロの波形はオーバートーンではなく基本波で発生させた68MHzで、オシロはどちらも400MHz、プローブはどちらも1GHzの同じFETプローブです。ちなみにフィデリックスでは光変調素子ポッケルスセル(Pockels cell)の駆動用にトランジスタのアヴァランシェ降伏を使って1500Vを1nSという高圧、超高速パルス回路をNTT武蔵野研究所に納入した実績があります。今回の新クロック回路は超低ジッター、高周波化、低電圧動作、波形の対象性を同時に高いレベルで満たし、特許性もあるので、出願が終わり次第の販売ということになりました。
 なお、新回路の電源は3.3Vから5Vまでの低電圧入力と、8Vから16Vまでの高電圧入力の2つがあります。低電圧入力側にはRCのノイズフィルターが入っていますが、高電圧入力側には超低ノイズ特性であるFETのQポイントを利用した安定化電源が搭載されています。
 安定化電源は基準電圧を直流アンプで増幅する原理なので、基準電圧は非常に重要です。基準電圧を最も簡単に作るにはツェナーダイオードの5.6V〜6.2Vを使うのが簡単ですが、非常にノイズは多いという欠点があります。RCのフィルターを使ってもノイズ電流はコンデンサーに流れるので、これも後述しますが何かと厄介です。
 近年、非常に良く使われるバンドギャップリファレンスは、電流密度の異なった2つのトランジスタのVBE電圧差(正の温度係数で数十mV)を何倍か増幅した電圧と、負の温度係数のVBEを加算することで温度係数0のバンドギャップ電圧(1.2V付近)を作る原理に基づいています。回路の都合でこの倍の電圧になるタイプもあります。このようにたくさん増幅するのでノイズは必然的に多くなってしまいます。3端子レギュレーターはこれをまたまた出力電圧まで増幅するので、ノイズはさらに大きくなってしまいます。しかも出力インピーダンスは低いので、出力にコンデンサーを入れてもなかなかノイズ電圧は小さくはなってくれません。しかしコンデンサーに流れるノイズ電流のループはあちこちを駆け巡るので厄介です。3端子レギュレーターは非常に便利なのですが音が良くないと言われる理由がここにあります。
 そこでこのクロックにはFETのQポイントという最もローノイズにできる基準電圧方式を使いました。これもフィデリックスから1978年に発売したLZ-12のプリアンプがおそらく世界初で、電源ノイズは0.3μV以下を達成しました。後にスタックスのアンプくらいしか使われなかったようです。正確なQポイントを探すのが面倒だったのと、そこまでの認識がないのかもしれません。参考までにQポイントを利用した基準電圧の回路例を以下に挙げておきます。(2009年8月19日)

        
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