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オーディオ機器の設計に必要なこと 中川 伸

 オーディオ機器の設計で最も必要なことは、好きな音楽があって、音へのこだわりがあることが第一だと私は思っています。そして、商品を設計する場合は、買ってもらうことよりも、その後に使って喜んでもらうことの方がより重用だと思っています。次がオーディオとエレクトロにクスに関する知識でしょう。そしてあった方が良いのが測定器です。測定器は部品の違いや、接点を通ることで音が変わるという事実を、必ずしも表せる訳ではありません。私は聴覚と測定器は性格が異なっていて、むしろ測定器を上回っているとさえ思っています。
 ですから、アンプを原音比較法で忠実な音に設計するのと、測定データを追い求めるのは明らかに設計手法が異なります。たとえば私が市販のOPアンプで音が良いと思うのはMUSES01やOPA627やOPA2134やμPC812などで、殆どがFET入力です(LH0032は試してはいません)。しかし、特性を計るとAD797やLT1028やLME49870の方がノイズや歪で優れています。しかし、音は必ずしも原音に忠実という訳ではありません。
 以上からして、私は測定データのみを追い求めるようなことはしませんが、それでも測定器は必要だと思っております。測定器は思い込みによる暴走を防ぎ、客観性と安定性を持たせます。
 オーディオ用として標準的なNE5532は海外で大量に買うと10円を切るという安さもあって、いたるところで使われています。特性は優秀で、音もまずまずですが、ものすごく良いという訳ではありません。ある意味、これがオーディオの面白さを制限しているとも言えます。そこでオールJFETのディスクリートOPアンプを作ることになってしまいました。実はこれが思った以上の出来映えですが、ピン8本の取り付け工賃だけでも160円になりました。OPアンプのところで正式に追伸をしますが、数量もCAPRICEに使う以上ができるようになりましたので販売の開始です。シングルは5800円、ディユアルは8900円です(いずれも税送料込み)。ただしゲイン5倍以上用は当面は中止で、ユニティーゲイン以上用のみとなりました。
 さて、超低ジッタークロックや、3端子レギュレーターや、オーディオ用ディスクリートOPアンプや、CAPRICEの開発で私と一緒に働いてくれた有能な仲間達である測定器をご紹介いたします。超低ジッタークロックの開発には400MHzのオシロスコープ(Tektronix製TDS460A,2467BHD)とアクティブプローブ(P6204,P6203,P6202A)とスペアナ(Advantest R3361B)とカウンター付きのオシロスコープ(Tektronix 2247A)と、オーディオアナライザ(audio precision SYS-2722)が活躍しました。
 3端子レギュレーターの開発では電子負荷(fujitsu EUL-300αXL)と安定化電源が活躍しました。
 オーディオ用OPアンプの開発では、パルスジェネレータ(HP 3312A))とオーディオアナライザ(Sound Technology 1700A,Panasonic VP7722A)が活躍しました。
 そしてCAPRICEの開発で最も活躍したのはSD Trans192かも知れませんが、オーディオアナライザ(audio precision SYS-2722)も非常に役立ちました。SYS-2722は世界標準といえる高性能機なので、今後も大いに活躍しそうです。
 測定器は微妙に性能が違ったり、まれに測定ミスもあったりするので、私は同じ測定を別な機器でも行うように心掛けています。医療におけるセカンドオピニオンのようなものです。そのFFTアナライザーがAdvantest R9211Eで オーディオアナライザがHP 8903Bで、FRAがNFの FRA5090です。
 ところで、オーディオ関係者は電源のことが重要だとは分かっていても、EMCノイズのことはあまり詳しくはありません。しかし、LISNとスペアナがあるとEMCノイズのことがとってもよく分かります。スペアナの左にあるのは私が作った伝導ノイズ測定用のLISNです。正式な認定品は空芯コイルを使った非常に大きいものですが、トロイダルコアでコンパクトに作りました。認定品との比較では、20MHz以下はほぼ同じで30MHzまでの間が少しだけ異なります。30MHz以上は放射ノイズが支配的なのでLISNではなくアンテナで計ることになっています。また、カレントプローブで電流波形を見ると電圧波形の観測では分からなかったことが色々と見えてきます。
 参考までにいえば、オーディオ用として使うオシロスコープは100MHz程度が必要です。エミッターフォロアはベースのリードインダクタンスと浮遊容量でコルピッツ発振器になりやすく、100MHz付近で発振することは日常的にあります。ですから50MHz帯域のオシロだとこの発振を見逃したりします。
 測定器は常にグレードアップしていますので、不用になった測定器も結構多くなってきました。そこでHP内で順次放出することを思いつきましたので、有効利用していただければ幸いです。感心のある方はinfo@fidelix.jpまでメールでお願いいたします。

 とりあえずの不要機器

 ・HP 8903Bは超低歪の発振器と歪率計のセットになったもので89,000円です。通常動作品で、電子化されたサービスマニュアルやユーザーマニュアルなどが付属します。付属のフィルターは400HzとCCITTです。Aカーブの回路はサービスマニュアルにあり、クワッドOPアンプとCRが20個程度の回路なので、器用な人なら基板を作って、CCITTと入れ替えることができます。
・横河DL-1540L プリンター、フロッピー付きのデジタル150MHzオシロでロングメモリタイプのプローブ2本付きの69000円です。電子化されたサービスマニュアルが付属します。アナログオシロに似て使用法が簡単です。

 以下は、これから動作確認する予定のものです。

 ・テクトロニクス2465A ポータブル型350MHzアナログオシロで、プローブ2本付きです。アナログの最後期のものなので、見方によっては貴重です。
   ・YHP 4333A アンバランス入力専用で発振器は別に必要ですが、0.01%フルスケール、残留歪は0.0008%位の高性能歪率計です。一時期は標準器のような存在でした。
 ・フルーク45  大電流レンジのみ1%程度の誤差があるようで、校正すれば直りますが、それなりの金額が掛かります。

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