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音楽にとって高域は重要 中川 伸

 オーケストラで、多くの時間はファースト・ヴァイオリンが主旋律を奏でます。また、最も旋律が聴き取りやすいのもファースト・ヴァイオリンのパートです。そして、ファースト・ヴァイオリンの主席が大役のコンサート・マスターという訳です。楽器の値段もヴァイオリンは、大きなコントラバスよりもはるかに高く、超名器ともなれば5億円位は平気でします。しかも、骨董的な価値ではなく、あくまでも音の価値なのです。また、オペラにおける主役はプリマドンナ(女声で多くはソプラノ)や、プリモウォーモ(男声で多くはテノール)と呼ばれたりして、ギャラもソプラノやテノールは高いのです。パバロッティーも約525HzのハイCが楽々出せるからこそギャラが高かったのです。(ソプラノの上限は約1250HzのE♭あたり)つまり、音楽にとって高域は非常に重要だといえるでしょう。
 ヴァイオリン・ドクターの中澤宗幸氏によれば、「ヴァイオリンは約300年前のアマティー直前で突然に完成された楽器!」だそうです。有名なストラディバリやガルネリもその直後です。以降はこれら以上のものがなかなか製作できません。そういった時代の名ヴァイオリンによるスペクトルが、写真のように、こすることによるピンクノイズ成分(自然なf分の1揺らぎ)を多く持っているのです。このことは、人が良い音と感じる聴覚について論ずるにあたり非常に重要なことです。今ではもっと純粋な高調波がシンゼサイザなどで簡単に作れるにもかかわらずです。
 水も純度を高めた蒸留水よりも自然に不純物を含んだミネラル水の方がおいしく感じ、塩も純粋な塩化ナトリウムよりも不純物が混ざった自然な塩の方がおいしく感じ、純粋な砂糖に少量の塩を混ぜるとより甘く感じ、無音の無響室は不思議な違和感を持ち、楽器も自然なf分の1揺らぎを含んでいる方が心地がよいのです。つまり、人間は純粋な蒸留水でもなく、純粋な塩化ナトリウムでもなく、無音でもなく、高調波のみの音でもない環境に適応してしまっているということなのです。古くて単純な音響理論では人の聴覚を説明できません。
 ところで、オーディオマニアは意外にも低音志向で、機関車や大砲といった低音のすごみが大好きですね。コントラバスをはじくピチカートや、打楽器も好きな傾向があります。作曲家のバルトークに言わせれば、ピアノは打楽器ですから、こうしてオーディオマニアの大好きな音楽は定番のピアノトリオになるというわけです(私も好きですが、、。)
 一方CDなどのディジタル化によって最も再生が困難な音は、よく言われているようにヴァイオリンやソプラノやテノールなどの高音です。この原因は、音楽にとって非常に大切な超高域がカットされていることがわかったため、SACDやDVDオーディオが誕生したのです。しかも20kHz付近を調べると、このようにピンクノイズ成分に似たものが多いことから、逆にいえば微少ではあっても20kHz以上のピンクノイズ成分がいかに重要であったかということになります。これは料理にスパイスが重要なのとよく似ています。20kHz以上のピンクノイズは正に音楽のスパイスであり、ハーモネーターはこのスパイスを加えることによって生演奏のおいしい音に戻すというお話でした。
 余談ですが、私の近所にテノール歌手でオーディオマニアの方がいらっしゃいます。ハーモネーターSH-20Kの発売当初に当社が近所だと分かったため、試聴に来ては購入してくれました。以来、ハーモネーターを愛用し続けてくれています。以下はその方から聞いた面白いお話です。1959年イタリアオペラ来日公演でオテロがあり、その方はバックコーラスに加わっていました。そのゲネプロ(練習)の時のことです。プリモウォーモのデル・モナコが第一声を発したら、バックコーラスの連中はみんなその声のすごさに驚き、すっかり聴き入ってしまいました。次の自分達の出番にはもう歌うことを忘れ、音楽が止まってしまったとのことです。究極のドラマティコ・テノールのすごいお話でした。


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