高音質な無接点ボリュームを作ってみました | 中川 伸 |
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先ずは、10dB絞って10dB増幅してちょうど良い音量にするのと、30dB絞って30dB増幅してちょうど良い音量にするのとではどちらが良い音に出来ると思いますか?もし、これで分からなければ100dB絞って100dB増幅することを考えれば誰もが容易に分かると思います。小さく絞るほどに増幅は難しくなるので、音は悪くなりがちです。でも実際は、10dBではなく30dB絞ったボリューム位置で動作させていることが殆どです。なぜか?人間の耳は対数に比例して音量を感じるので、その性質に近い変化をするAカーブボリュームが採用されますが、これはセンター位置で約17dBの減衰量です。専門家相手のプロ機器は、センターか、それ以上の位置になるような設計にすることが多いのです。
しかし、一般人向けだとゲイン配分をわざと大きくしてボリューム位置が時計の10時くらいでちょうど良い音量にすることが多いのです。すると、本能的にも直感的にも、このアンプはとてつもない出力余裕があって底力が有ると勘違いをします。そこで、世界中のオーディオメーカーが30dBほど絞ったボリューム位置になるよう高すぎるゲイン配分にしています。この弊害は、音が悪くなるのが第一ですが、残留ノイズが大きくなって、能率の高いスピーカーで耳をくっつけるとサーというノイズが聴こえたり、ボリュームの連動誤差が出易いといったことがあります。これはいくら事情説明をしても苦労するだけですから、それならいっそのことAカーブはやめ、Bカーブで適切なゲイン配分になるようにしようではありませんかというのが、私の提案です。そうすればゲインを下げながらもボリュームの角度を10時くらいの位置に出来るからです。
さて、今回、無接点ボリュームを作ってみました。私は1975年にはボリュームが相当な悪さをすることを知っていました。このためDA-300では抵抗とスイッチを使ったアッテネータ方式にしていますし、フィデリックスのLZ-12やMCR-38でも同様のアッテネータ方式を採用していました。CERENATEやCAPRICEではまずまずの品質のものを高いインピーダンスで受けるように配慮はしています。ところが新日本無線のオーディオ用電子ボリュームを聞く機会が有って、ああ、ここまで良くなっているんだなあと認識を新たにしました。しかし、他の部分で、私にはもう少しのこだわりがありました。そうしたらあるときにもうすっかり無くなっていると思っていたCDSとLEDのカップラを見つけました。実はこのデバイスは歪が少ないので低歪の発振器や歪計にはよく使われていますし、私は使い慣れてもいました。
基本原理は下図に示しますが、作ってみることにしました。しかし、実際はこんな簡単ではありません。
CDSカップラは、ばらつきが多いうえ、温度でも変わりますので、そのままでは上手く使えません。そこで、たくさん買い込んでペアを組んだり、温度補償回路を入れなくてはなりません。そして写真のようなものを作ってみました。さて、音を聴いてみましたが、率直に言って驚きました。予想ではメガΩとかギガΩという高いインピーダンスで受ければ良いかも知れないけれど、50kΩ付近の受けでは駄目かもしれないと思っていましたが、なんのそのでした。
音がつるりとして、きめが細かく滑らかです。とにかく微細な音までが良く出てきます。しかし、ここぞというときにはパンチの効いた鮮明な音が出るので、大人しくて、ひ弱ということではありません。ようするに、ガリガリしたりザラザラした付帯音が無くなってしまうのです。もしかすると無接点ボリュームはスイッチに抵抗を付けたアッテネータ方式より良いかも知れません。歪率は0.01%以下程度で、アッテネータ方式には及びませんが、聴感では接点の無さの方が優利に働く感じです。
部品そのものに高価なものは有りませんが、4層基板にしたり、6個もの半固定ボリュームで根気よく連動誤差を0.5dB以内に追い込む必要があるので、残念ながら安価にはなりません。これをどういった用途に応用が可能かは検討中です。欠点は動作がパッシブであっても電源(DC8V〜15V)が必要なことと、40dB位までしか絞れないこととでしょうか?ゲインが高すぎる設定の民生機に使用するにはこの直前に直列に抵抗を挿入します。するとインピーダンスが上がるメリットもあります。また、音量は温度や時間経過で多少は変わります。全体の抵抗値は約12kΩで、±20%位は減衰量によって変化します。変化カーブはAカーブですがBカーブにすることも可能ですし、4連にすることも出来ます。2011年7月13日