フォノ・カーブ・アジャスター PCA-25 の誕生。 | 中川 伸 |
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RIAAイコライザーの後ろに接続することで、BASSとTREBLEの組み合わせから25種類のカーブが追加され、RIAA以外の主なEQカーブにも対応可能です。これにより古いレコードも心置きなく堪能できます。
弊社の取引先であるヒノエンタープライズの社長は、古いステレオレコードや、モノラルレコードも聴きます。そこでRIAAのみのフォノイコライザーの後ろに付け足すことによって、カーブのバリエーションを広げるものは作れないか?との問いから生まれました。古い録音対応なので、モノラル化スイッチも付けました。
弊社はLEGGIERO(\200,000税別)というEQカーブの切替機構を持つフォノイコライザーを販売中なので、白羽の矢が立ったという訳です。そこで回路シミュレーターMicro Capを駆使して練り上げましたが、この使い方はYouTubeで説明しているので、興味のある方はぜひ、ぜひご覧になってください。カーブは25種類に絞ったので正確な補正というよりは実用的な近似カーブになっております。
Micro Cap 1 Micro Cap 2
特徴はアンプや電源が不要なパッシブ素子のみで構成したことにより、純度の高い音質を獲得しました。純粋なアナログ技術なので、使用パーツには特にこだわり、抵抗はアメリカのPRP社の非磁性抵抗、コンデンサーはPPS型を特殊樹脂で固め、接点は全て金メッキになっております。連続可変は避け、ロータリースイッチにしたのも音質を重視したからです。左右のアースに導通がない完全なモノラルコンストラクションになっており、非磁性のアルミシャーシです。
取扱上の注意としては、負荷インピーダンスが30kΩ以上ではほぼ所定の動作をしますが、負荷インピーダンスが20kΩや10kΩの場合は低域が下がるので、BASSツマミを1段上げることによりぼ所定の動作になります。つまりRIAAにしたいときは、1つ上のポジションのAES SPになります。駆動インピーダンスは約1kΩ以下であれば問題は無く、挿入損失は約7から9dBなので、その分だけボリュームを上げてお使いください。
一般の人はボリューム位置が9時とか10時位で聴きたがります。その方がアンプに余裕があると勘違いするからです。しかし業務用機器の標準位置は2時の位置です。その方がより細かい調整ができるし、残留ノイズも少なくなるからです。一般用のオーディオ機器は、ユーザーの誤解から、ゲインを高過ぎに設定しています。したがって、-7dBのゲインロスは通常なら問題ありません。そして、こういったものを入れる場合に、信号レベルの高いところに入れた方が悪影響は少ないです。私なら、REC OUTとTAPE INの間に入れ、レコードのみならず、他の音源でも使うと思います。ちなみにアーム2本を使ってMCカートリッジを切り替えるスイッチ部は最も心配な場所です。
さらにプリアンプとパワーアンプの間でも使え、レコード以外のプログラムソースでも純度の高いトーンコントロールとして利用可能です。XLRで使いたい場合は、1台を+信号専用に当て、もう1台を-信号専用に当てます。外部にてXLRからRCAへの変換コードとRCAからXLRへの変換コードで本機を2台使う方法になります。コンパクトに仕上げたので、置き場所には困らないでしょう。
さて、カーブの精度についてですが、イコライザー、アンプの開発をするときに、RIAAの偏差を試聴しますが、±0.2dBの偏差は、繰り返し比較すれば分かります。だから、どのカーブも0.2dB以内に合わすべきという厳格な考えもありますが、私自身は、以下のことから、そこまでの厳密さは要求しないです。それは古い時代の方が、どうしてもナローレンジで、新しいものはワイドレンジの傾向があります。そして、レコード会社ごとに音のポリシーがあり、録音エンジニアの好みによっても結構異なります。RIAAのレコードであっても、少し高域を上げたいとか、下げたいという録音はいっぱいあります。そういう場合でも本機を自由に使って音楽を楽しんで頂ければ幸いです。塩や胡椒はお好みでどうぞ、という感じです。
周波数特性ですが、2001年頃にMFB技術を使って20Hzからフラットになるシステムを作りました。すると多くのソースで低音はオーバーになりました。つまり、レコードは、将来に現れる、より高性能な装置で本領を発揮するような作り方はしていなくて、当時の平均的な装置で良い結果が得られるように調整しております。ですから、時代ごとに音は異なるので、自分の装置や部屋に合わせた聴き方を自由にするのが良いと思います。このPCA-25は音質劣化を最小限に抑えたシンプルな構成としたので、きっと自由で快適なオーディオライフに寄与するものと思います。
モノラルスイッチを付けましたのでその説明ですが、モノラルLPの魅力は左右のエネルギーが集中した腰の強い音質と演奏の良さです。1950年頃に録音した演奏家達は真にトップレベルでもありました。大戦後という時代背景からも魂の込められた演奏が多いと思います。そういった時代背景からモノラルLPを好む熱心な音楽ファンはいらっしゃいます。ステレオカートリッジでも、モノラルLPを再生できますが、いくらか広がって聴こえ、その分、エネルギーは散漫になります。そこで、モノラルLP用のカートリッジが注目を集めてもいます。私もモノラルLPはそれなりに持っていて、聴いてもいますが、恥ずかしながら簡易的にステレオカートリッジで聴いていました。そこで、実際に試してみることにしました。
まずはモノラルカートリッジAT-MONO MCで聴いてみると、今までステレオで聴いていた印象とは異なり、分散される感じが少なくなって確かにエネルギーが集中し、魂がこもったたかのように聴こえます。では、次にDL-103をモノラル接続(Rchをアース側に直列接続し、ヘッドシェル側では並列出力)にして聞いてみました。ほぼモノラル信号と同じように聴こえます。次はステレオ接続したDL-103で、聴くとやはり少し広がった感じがして、散漫な感じになり、音楽の訴求力は後退します。
つまり、元の録音がモノラルだとモノラルカートリッジかステレオカートリッジであってもモノラル接続で聴いた方が訴える力が増すというのが結論です。モノラルレコードはステレオで簡易的に聴くよりも、モノラルかモノラル接続すると3dB程SNが良くなります。ステレオカートリッジでもモノラル接続が使えるとなれば選択の幅は広がります。PCA-25では、この体験をもとに、モノラルスイッチを付けたのでサーフェスノイズは3dB下がります。左右の音溝のサーフェスノイズが同相であればSNは同じで、逆相なら0になりますが、無相関なので3dB下がるという訳です。
ここからは技術的な補足になりますが、モノラルレコードは横方向の溝を1ミルの針でトレースすることになっていますが、ステレオカートリッジは0.65ミルです。最近のモノラルカートリッジはステレオとの互換性から0.65ミルも多いです。塩化ビニールは柔らかくて弾性変形しながら進むので、この程度の違いは問題なくて、楕円針でも問題は無いようです。ただし、ラインコンタクト針については尖り過ぎて当時のカッテイング針とは相性が悪い盤があるかも知れません。
モノラルは横方向の信号しか無かったので、カートリッジは横方向しか動かない構造のものがありました。これでステレオレコードをかけると、レコードを痛めます。ある時代以降に売られているモノラルカートリッジはそれを避けるため、縦にも動くものがほとんどです。つまり、ステレオカートリッジと同じです。また、ステレオレコードには必ずステレオ(stereo)と明記することになっています。あるいは短期間のですがステレオとモノラルがコンパチブルと明記されているものもあります。
モノラルスイッチを使うことで、モノラルカートリッジと同様に、迷いの無いゆるがない信念が聴こえてくると思います。レコードのセンターをぴったりと合わせるピュアセンターの時と同様に、迷いの無い魂を感じました。巨匠よりも美男美女系という、現代の傾向とは異なった古い演奏に耳を傾けるのもまた新鮮かと思います。
どれほどのニーズがあるのか分かりませんので第一ロットは少なめで発注していて、出荷は12月中旬予定です。価格は\54,000(税別)です。予約は販売店様か、弊社にご連絡をお願いいたします。(2023年11月4日)
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