オーディオ用スイッチング電源の近況 | 中川 伸 |
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フィデリックスが開発したオーディオ用スイッチング電源(セリニティー電源)の近況です。電源はその性能のみならず、感電や発火を起こさない「安全な壊れ方」がとても重要です。そのための十二分な検討が必要となります。更に、他の電子機器へ悪影響を及ぼさないようEMIノイズ(妨害電波)規格なども重要です。今、医療機器用の電源を作っている電源メーカーから、この超ローノイズ特性が注目され、共同でそれぞれの製品化に向けて動くことになりました。医療機器はEMIノイズで誤動作すると、場合によっては生命にかかわります。飛行機はEMIノイズで墜落する可能性すらありますので、離着陸時には電子機器の使用を制限している程です。こういった検討をしている最中なので、今しばらくお待ちください。
さて、最新のセリニティー電源の波形ですが、上図のように非常に綺麗なサイン波になっていて、とてもスイッチング電源とは思えないほどの波形です。 ちなみに上がトランスに加わっている電圧波形(20V/DIV)、下がスイッチに加わっている電圧波形(100V/DIV)で、もう一方のスイッチはこれと180°の位相差で動いています。このためスイッチング波形の高調波成分が少なく、スイッチングノイズは激減するのです。
効率ですが、クラスDの高調波対策をしてもなお93.3%と超高効率でした。これは、AC100V入力でならおそらく世界最高水準の効率でしょう。高効率で有名なテスラ・コンバーターは効率93.7%とこれも超高効率ですが、効率の上げやすいAC240V入力時であって、AC100V入力時では、91%くらいです。
オーディオ用スイッチング電源で最も重要なことは、第1にスイッチングノイズが少ないこと、第2に負荷応答はリンギングやオーバーシュートなどが無く素直なこと、第3はピーク電流の供給能力が大きいことといえるでしょう。このセリニティー電源はこれら全てを高い次元で備えているので、オーディオ用としては最適と考えられます。
スイッチングノイズはノーマルモードとコモンモードに分けられますが、重要なのはコモンモードの方です。というのは、ノーマルモードは簡単に取ることができるからです。コモンモードノイズの支配的な原因は、トランスの1次2次間のストレーキャパシタンスを流れる電流にあります。これはスイッチングの電圧波形と密接な関係があるので、とにかく電圧波形を綺麗にする必要があるのです。
スイッチング電源は、ハードスイッチングとソフトスイッチングに大きく分けられますが、勿論、ソフトスイッチングの方が有利です。ソフトスイッチングは電流共振系(ZCS)と電圧共振系(ZVS)と複合共振系(ZVSとZCSを交互に行い、部分電圧共振系の動作)に分けられますが、これも電圧共振系や複合共振系の方が前述した理由からして有利になります。電圧共振系は半波電圧共振、擬似共振、部分電圧共振、全期間電圧共振、ZVTなどに分けられますが、全期間電圧共振が最もローノイズにできます。つまり、セリニティー電源は全期間電圧共振なので理論的に最もローノイズにできる方式であると言えるでしょう。現に一般のスイッチング電源と比べれば約30dB低い値になっています。
2007年9月7日に学会発表した資料です。
参考までに以前に発表した資料は以下の通りです。
なお、本技術は東京都による外国出願助成事業に選ばれ、2007年9月に米国特許7272019B2として登録されました。